はしゃぐ仲西青年に、古賀が追い駆けられ大騒ぎになった。「花火を人に向けちゃいけません」という有名なキャッチフレーズを萬狩が噛み砕いて説明しても、仲西青年は、実に愉快そうに笑うばかりだ。

 仲西の他にも、花火に対してはシェリーが盛り上がりを見せた。彼女は、光と音を立てる花火を見て興奮し、年寄りを思わせない軽い足取りで四人の周りを飛び跳ね、「ふわ、ふわん」と上機嫌に鳴いた。

 花火もようやく二袋目を消費した頃、「芝生があるから平気よね」と、仲村渠(なかんだかり)老人が不穏な言葉を口にして鼠花火を放ってきた。

 萬狩は飛び跳ねた。まるで凶暴な生き物のように激しく動く鼠花火を前に仲西が笑い、古賀が悲鳴を上げ、萬狩が叱責する間も、老人は次から次へと鼠花火を投入し、器用にそれらをひょいひょいと避けた。

「仲西君、鼠花火買い過ぎだよ~」
「だからって全部投入する奴があるかッ」

 萬狩が、ようやく仲村渠老人から鼠花火を取り上げた時、既に袋の中身は一つしか残っていなかった。

 彼らが最後に取り出した花火は、線香花火だった。

 萬狩の中で、線香花火というのは女子のイメージが強く、なぜ男四人で線香花火をやらねばならないのか、と疑問が深まった。それを、彼はつい愚痴ってしまった。

「全く、いい歳した大人が花火とか、恥ずかしくはないのか?」
「僕はまだ子供です。だから平気ですよ!」
「都合良く大人になったり子供になったりするな」
「ぼ、ぼくも好きですよ、花火。大人も子供も、きっと好きだと思います」

 古賀が、さりげなく仲西をフォローした。

 萬狩は少し考え、そういえば谷川も好きだったな、と思い出して黙りこんだ。まだ会社が小さかった頃、谷川は暇だからといって、事務所のベランダで線香花火をやっていた事が何度かあった。