うだるような暑さに加え、体力を消耗していたから誰もが静かだった。原因は、やはり食べ過ぎだろう。萬狩と仲村渠はソファで珈琲、仲西と古賀は、シェリーと床の上でしばらく戯れていたが、いつの間にか四人と一匹は眠ってしまっていた。

 萬狩は、午後三時に一度目を覚ました。

 リビングの、好き勝手な場所で眠っている自由な面々を見回し、自分の足元で腹を見せて寝ている淑女らしかぬシェリーを数分ほど眺めた。

 ここは俺の家のはずなのになぁ、となんだかバカらしくなって、彼はソファの上に座ったまま寝直した。

       ※※※

 次に目を覚ました時、西日が縁側の窓から差し込む時間帯にまで変化していた。
キッチンには、慣れたように珈琲を用意している仲村渠老人がおり、珈琲の香りが部屋内を満たしていた。古賀が仲村渠老人を手伝い、仲西青年は、床の上に座ってシェリーにクッキーを上げていた。

「仲西君、ミルクはどこかね」
「二番目の棚の上です」
「お、あったあった。ねぇ仲西君、珈琲、もうそろそろいいと思う?」
「その緑の光が消えるまで待った方がいいですよ。萬狩さん、いつもそうだから」

 萬狩は、寝過ぎたために重くなった頭に手をやり、「ここは、俺が一人で暮らしている家のはずだが……」と口の中でぼやいた。

 彼らにすっかりキッチン事情まで把握されている事実が、どうにも釈然としない。すると、萬狩の目覚めに気付いた三人が、それぞれ「おはようございます」と呑気な声を上げ、老犬が「ふわん」と鳴いた。

 畜生、もう勝手にしてくれ、と萬狩は投げやりに「ああ、おはよう」と答えた。

 萬狩が食卓についたタイミングで、珈琲が淹れられた。仲西は砂糖とミルクをたっぷり入れたが、他の三人は、自分好みに調整して珈琲を飲んだ。