萬狩は、向こうに見える仲西の横顔に半眼を向けた。すると、視線に気付いた仲西が振り返り「萬狩さーん」と手を振ってきた。彼の隣にいた仲村渠も、こちらに顔を向けて「ほほほ」と呑気に笑った。

 庭には、食欲を誘うような煙と匂いが立ち始めていた。一緒にウインナーを焼く匂いが鼻をついて、シェリーが、自然と鼻先を宙に向ける。

「お前は食えんぞ」

 萬狩が言うと、老犬が得意そうな顔で「ふわん」と鳴いて腰を上げた。珍しくも萬狩のズボンの裾を引っ張り、焼かれている現場まで行こうと誘う。

 仲村渠老人が、その辺の呑気な老人のような、穏やかな笑い声を上げて「大丈夫ですよ、萬狩さん」と声をかけてきた。

「彼女が食べられる物も、ちゃんと用意していますから」
「シェリーちゃんの食べ物は、僕に任せて下さい!」

 さすがは獣医と、同じく専門知識を持った組み合わせ、というところだろうか。
萬狩が「やれやれ」と立ち上がると、それに古賀も続いた。

 仲西は食い気が勝っているようだし、古賀は随分食が多そうな体格をしているから、沢山肉を用意していた良かったと、萬狩は、そんならしくもない事を考えた。


 もう当分肉は見なくてもいい。そうと思うほど四人は食べた。さすがにA級ランクの肉ばかりだと油で胃がもたれるのが早く、その下のランクの肉がよく進んだ。
仲西は体系の割りによく食べたし、古賀は、恐ろしいほど大量の食糧を胃に収めたが、それでも全ての肉を焼く事は出来ず、最後に鉄板焼きした塩焼きそばは、食べ切るまでに一苦労した。

 正午もすっかり過ぎた時刻、四人は食事を終えて、リビングでしばらく涼んだ。