「失敬な。イナリ寿司ぐらい食べた事はあるぞ」
「だから、沖縄イナリですってば。この皮のとこ、普通のより色がうすくて黄色でしょう? すごく美味しいんですよ」

 嬉しそうな顔をした仲西が見せてきたのは、惣菜容器に詰められた八個のイナリ寿司だった。それは、萬狩が知っているイナリ寿司よりも一回り大きく、形は三角で色も薄い黄色かった。

 そんなイナリ寿司があるとは知らなかった。

 萬狩がそう呟くと、古賀が頼りない笑顔を浮かべて「美味しいですよ。ぼく、すっかりこっちのイナリにはまってしまって」と言った。海辺で話した時以来だった事もあり、なんだか気まずくて、お互いぎこちなく笑い合った。

 古賀は、初対面になる仲村渠老人とも自己紹介を行った。中にしから話は聞いていたようで、激しい人見知りは見せなかった。

 対する老人獣医は、「堅苦しくなさらないで結構ですよ」と陽気に笑った。

「仲西君から話は聞いていると思いますが、私が獣医の仲村渠です。よろしく」
「今でも海に人を放り投げる獣医さん、ですよね……?」
「あれ、なんで思い出したように一歩引いたの、古賀君。今ちょっと距離感を感じたよ」

 仲西君には困ったものだね、乗りとテンションじゃないの、と老人獣医は事実を否定せず、それらしい顔でふぅと息を吐いた。

 時間は少々早かったが、メンバーが揃った事もあり、早速肉を焼く事となった。

 仲西が「僕に任せて下さいよ!」と進んで焼きを担当した。どうやら、仲村渠老人が肉の焼き加減を指導してくれるらしく、紙皿を片手にその様子を覗き込んだ。その傍らで、古賀が持ってきた角氷を飲料水用のクーラーボックスに追加していた。

 萬狩は特にやる事がなく、古賀が追加設置し、パラソル付きとなった簡易テーブルセットに腰かけて煙草を吹かした。彼の足元にはシェリーが座っていて、時折、仲西達の方へ顔を向けた。