「俺の記憶違いだろうか。バーベキューは昼飯代わりにやって、そのまま解散の流れだと思っていたんだが」
「そんなに早く終了するバーベキューがあるとは、驚きですな。面白おかしく楽しんでこそのバーベキューですよ、萬狩さん。大丈夫です、私はきちんと自分用の枕を持ってきましたから」
「ソファに置かれている、あの豚のクッションの事か。そもそも、あれを一体何に使うつもりなんだ?」

 萬狩が顰め面で尋ねると、老人獣医は、またしても当然のように答える。

「何って、星空観賞会に決まっているでしょう。この歳になると、どうもブルーシートに横になるだけでは、腰が痛くて大変なのです」
「じゃあ、あの得体の知れない顔文字のクッションは何だ」
「あれは仲西君に頼まれて、前日私の車に乗せていたやつですよ。念のために用意しておこうという事になりまして、萬狩さんと古賀さんの分もあります」

 畜生、道理でクッションの数が余分にあると思ったぜ。

 見ていると何だか苛々するあの顔文字のクッション、俺の分まであるのかよ。

 萬狩は、仲村渠老人の話を聞きながら、すっかり荷物だらけになったリビングを横目に見やった後、目頭を丹念に揉みほぐした。クッションの呑気な顔文字が、仲西青年に見えてくるのは、きっと自分が疲れているせいだろう。

 木炭の火が、吹き抜ける風にも消える気配がなくなった頃、漫画家である古賀が遅れてやって来た。

 庭先からは砂利の広い駐車場が見えるのだが、そこにのろのろと乗り込む黄色の軽自動車が目について、萬狩達は、古賀が到着した事を知った。