そう警戒心を覚えて起き上がろうとした瞬間、萬狩は、身体に強い衝撃を受けて「ぐぅ」と情けない声を口からこぼしていた。

 予想にもしていなかった朝の奇襲で、強いダメージを受けた萬狩の身体は、続いて大きく揺さぶられ始めた。同時に、耳に飛び込んできたのは若々しくも騒がしい、最近すっかり聞き慣れた青年の声だった。

「萬狩さん、萬狩さんッ、朝ですよ起きて下さい! 今日は日曜日ですよバーベキューですよ、おはようございます!」

 まず、言葉の順番がおかしい。

 そして、まるでクリスマスプレゼントに興奮する子供のようにはしゃいではいるが、お前は二十九歳のいい大人であるし、そもそも朝の挨拶が最後にくるとは一体どういう事だ?

 言いたい事は沢山あったが、頭痛と疲労感を覚えて、萬狩は諦めたように顔を枕に押し当てた。

 失礼を詫びるのが先ではないだろうかと思いながら、ようやく顰め面を持ち上げて、こちらを覗き込む仲西青年を、寝ぼけ眼で睨みつける。

「……お前、なんでここにいる?」
「え。昨日合鍵を借りたじゃないですか」

 萬狩は、数秒ほど昨日の記憶を辿った。そういえば帰りを促した際、仲西青年は「鍵をもらっていきますね」と爽やかに言って、流れるように退出していったような気もする。

 こいつに合鍵の場所を教えた覚えはないが、と萬狩は奥歯を噛みしめた。すっかり室内の事情を把握されているようなさまが、実に腹立たしい。

 萬狩が苦々しく思いながら再び枕に顔を押し当てると、仲西青年は、布団のシーツ越しに彼の肩を掴み「ねぇねぇ」と再び揺らした。

「バーベキューの準備を手伝うって言ったの、忘れちゃったんですか? 焼き肉のたれとか、焼きそばのたれ、それから野菜も持って来ましたし、缶ビールは一ケースありますよ」