寝室には、白いシーツが眩しい古風な西洋風のダブルベッドが一つ、鏡の部分にカーテンの引かれた化粧棚があり、その間に、犬用のベッドだと教えられていた籠が置かれていた。

 その籠の中に敷かれた、刺繍の入った深い緑色の大きなクッションの上に、中型というよりは大型の部類に入るコリー犬が、半ば眠るようにして身体を横たえていた。

 老犬の体毛は、通常のコリー犬に比べて長く優雅で、想像していたよりも立派な犬にも見えた。けれど、よく見れば優しげで大きな瞳は、どこか薄らと白んでもおり、ゆっくりと持ち上げられたその落ち着いた顔には老いを覚えて、――萬狩は、そのコリー犬が確かに歳を取った犬である事を理解した。

 老犬は萬狩を見据えはしたが、初対面であると言うに、吠える事も警戒するような態度も見せなかった。彼が部屋の中を歩く様子を、ゆっくりと首を動かしつつ眺めるばかりだ。

 先日に説明を受けた情報によれば、老犬の名前はシェリーといい、十八年になるメス犬だった。若い頃に避妊手術を施され、子の出産経験は一度もなかったが、一度乳房の病にかかって乳房を切り取るという手術も受けたらしい。

 他の犬に比べると少々老いた感はあるものの、同じ年頃の犬に比べれば身なりはいい方なのだろうと思えた。

 萬狩は以前、ひどく痩せ細り、毛もぼさぼさで、目脂もある野良の老犬を見た事があった。昔、通勤の行き帰りでちらりと見掛けたその野良犬は、暑い季節を乗り越える事が出来ず、ホームの片隅で死んでしまったのだ。

「一人身同士、互いの生活を過ごしていこう」

 仲良くなるつもりも、深く世話を焼く義理もないのが、彼と老犬の関係だ。

 萬狩のその想いを知ってか知らずか、老犬――シェリーが、一度だけ肯くような瞬きを見せた。