「あたしは断然、マオ先生派だな。コミケ楽しみにしていたのに、新刊ゲット出来なくてさぁ。あ~あ、時間あったら、マリナちゃんとカラオケに籠もって語り合えたのになぁ」
「休みの日ぐらい、信輔(しんすけ)さんとゆっくりデートしてあげて……なんだか可哀そう」
「会社でも毎日顔合わせているのに、今更だよ」
「そうかなぁ。私は、羨ましいって思うけれど」

 そう言いつつ小首を傾げる幼い彼女に、中世的な女性が「それにしてもさ」と苦笑を浮かべる。

「マリナちゃん、また二冊買い? 保存版まで買っちゃうとか、なんか勿体ないような気がするんだよねぇ」
「だって、大好きな作家さんだもの」

 彼女は腕の中を見降ろし、微笑みながらそう断言した。

「一番、特別な人なのよ」
 足を止めて目を閉じ、噛みしめるように言葉を紡ぐ彼女が、萬狩の目に印象的に残った。

        ※※※

 自宅へと戻る道の途中、萬狩は、仲西青年から渡された『買い物リスト』の走り書きに記してあった『オススメのスーパー』とやらに車を走らせた。そこは、通常の店より、菓子類が安く買える事で有名らしい。

 古い外観の店に入ってみて、萬狩は驚いた。そこはレトルト用品や菓子類ばかりが多く取り揃えられていて、全商品が通常価格より三割は安い。

 萬狩は、菓子の種類や定番物を知らなかったから、ひとまず買い物カゴいっぱいに適当な商品を見繕い購入した。

 ちょうど午後三時の込んでいる時間帯に遭遇してしまい、帰宅出来たのは午後四時半の事だった。

 庭先には既にバーベキュー台がセットされており、玄関前には、仲西青年と仲村渠老人がいて萬狩の帰宅を待っていた。