間一髪で衝突は免れたものの、避けたタイミングで珈琲豆の入った袋が足元に落ちてしまった。

「す、すすすすすみませんッ!」

 飛び出してきた女性が、何やら茶色い紙袋を大事そうに抱えたまま、我に返ったようにそう平謝りしてきた。

 萬狩は「別に大丈夫だ」と答えつつ、落ちた珈琲ショップの袋を手に取るべく腰を屈めた。すると、彼女がそれに気付き、「私がッ」といって素早く拾い上げた。

 女性は、沖縄ではあまり馴染みのない白い肌に、浅く可愛らしい顔立ちをしていた。どこか愛嬌のある丸い瞳をしており、背丈は百五十センチほどと華奢だ。歳は、恐らく二十台前半といったところだろう。

 大人びたロングタイプのワンピースに、半袖の薄地の上着を重ねているが、全体的にどこか幼さを覚えるような女性だった。

 薄く化粧はしているものの、髪先に大人びたパーマをあてていなかったら、恐らく少女といっても通りそうだった。顔立ちもそうだが、はにかんだように笑い、腕の中の買い物袋を大事そうに抱える様子も、大人になりきれていない印象を萬狩に与えた。

 彼女は、拾い上げた珈琲店のロゴが印字された袋を萬狩に手渡すと、もう一度短く謝罪をして踵を返した。恐らく、書籍だろうと思われる紙袋を大事そうに胸に抱えたまま、頬を高揚させ、一見して喜々と伝わる雰囲気で駆けていく。

 萬狩は、彼女が出てきた建物の案内板へ目を向けた。

 確認してみると、四階には彼も知っている書店が入っていた。ふと、古賀が話していた例の彼女の事が脳裏を過ぎった。

 先程の女性は、まるで恋人の作品を抱く少女のようでもあるし、その作品に恋をしているようにも見えた。もし古賀の恋人があれぐらいに漫画を愛しているのなら、全く問題にならないだろうにとも思ってしまう。