どれも、大した額でもない物ばかりなのだ。だから、レシートも領収書も、既に捨ててしまっている。

 今回のバーベキューに入り用な物もそうだった。萬狩が以前住んでいた場所で飲み食いに使っていた額に比べれば、全く気にもならないほどに安い出費なのだ。

 だから、何もおかしくはない。

 何かが大きく変わった訳ではなく、些細なことなのだろう。

 萬狩は、早々に空になってしまった珈琲カップを見降ろした。久しぶりにここの豆でも買っていくかと腰を上げ、気に入っていた種類の豆を三袋ほど見繕った。

 しかし、ふと家にいる仲西青年と仲村渠老人の事が思い出され、セットになったインスタントタイプの珈琲も買っておいた。彼らに珈琲を飲む習慣があるのかは知らないが、まぁ買っておいても損はないだろうと思う。

 買い物リストには、仲西からの注文で菓子類の走り書きもあったが、この一帯にあるのは土産屋が大半で、駄菓子を扱う店は少ないようだった。手荷物も増えていたので、他の店を回るには不便であると考えた萬狩は、珈琲店を出ると駐車場向けに足を進めた。

 珈琲の豆の重さが、次第に腕に込み上げた。

 強い日差しを受けている事もあり、彼は早々に汗だくになった。陽気な青い空を思わず忌々しく睨みつければ、その眩しさに目が眩んで、余計に苛々した。

 萬狩は堪らず、高層ビルの影に逃げ込むと、しばらく立ち尽くして息を整えた。
いくつもの専門店が入った若者向けらしい総合アパレル店の出入り口には、多くの若者が出入りしていた。そこからは冷房の冷気がもったいないほど外へ流れ出ていて、萬狩は、通行人の邪魔にならない程度に涼む事が出来た。

 不意に、そこから飛び出してきた若い女性と危うくぶつかりそうになって、萬狩は、「うおっ!?」と短い声を上げて咄嗟に身体を捻った。