ここで暮らし始めて四ヶ月、自炊の腕前と掃除力は確実に上がっているような気がする。それから、向こうにいた時よりも時間に余裕がある生活を送っているせいか、苛立ちや怒りを覚える事も減った――とは思う。
谷川から、別れた家族の話は少しだけ聞いていた。数年前に購入した二番目の一軒家で、相変わらず元妻と子供達は暮らしているらしい。
なぜそう詳しいかと言えば、萬狩の長男と、谷川のところの一人息子は同じ大手企業に勤めていて、息子経由で自然と情報が入ってくるのだ。それに谷川の妻と萬狩の元妻は馬が合い、親密な交友も続いている。
萬狩は先月あたりから、手紙でも書いてみればいいじゃないか、と谷川には勧められていた。二人とも、心底君が嫌いな訳じゃない。話す事が大事だよ、と谷川はそれとなく諭すのだ。
萬狩の方でも、最近は書いてみようかと考える事もあった。けれど、一体何を書いていいのか分からないでいる。
宛先は勿論息子達であるが、特に報告する事もなければ、訊く用件も想像できないでいた。萬狩は、あまりに息子達の事を知らないでいる自分にも気付いていたから、今更手紙を送る事にも気が乗れないでいるのだ。
「まず、俺の名前を見た途端に、あいつが破り捨てそうだな」
結婚当初はそうでもなかったが、子供が生まれてから、途端に行動力に拍車がかかった元妻を思い起こした。恐らく、俺の妻が最強だろうと今でも疑っていない。
思わず言葉をこぼせば、足元でシェリーが「ふわん」と鳴いた。いつの間にか鍵盤の上から離れていた手を指摘されているようだと気付いて、萬狩は苦笑した。
「谷川も、きっとそれを忘れているんだろうな。あいつには、あの女がどれほど過激で強い女性だったか、メールで思い出させてやるか」
谷川から、別れた家族の話は少しだけ聞いていた。数年前に購入した二番目の一軒家で、相変わらず元妻と子供達は暮らしているらしい。
なぜそう詳しいかと言えば、萬狩の長男と、谷川のところの一人息子は同じ大手企業に勤めていて、息子経由で自然と情報が入ってくるのだ。それに谷川の妻と萬狩の元妻は馬が合い、親密な交友も続いている。
萬狩は先月あたりから、手紙でも書いてみればいいじゃないか、と谷川には勧められていた。二人とも、心底君が嫌いな訳じゃない。話す事が大事だよ、と谷川はそれとなく諭すのだ。
萬狩の方でも、最近は書いてみようかと考える事もあった。けれど、一体何を書いていいのか分からないでいる。
宛先は勿論息子達であるが、特に報告する事もなければ、訊く用件も想像できないでいた。萬狩は、あまりに息子達の事を知らないでいる自分にも気付いていたから、今更手紙を送る事にも気が乗れないでいるのだ。
「まず、俺の名前を見た途端に、あいつが破り捨てそうだな」
結婚当初はそうでもなかったが、子供が生まれてから、途端に行動力に拍車がかかった元妻を思い起こした。恐らく、俺の妻が最強だろうと今でも疑っていない。
思わず言葉をこぼせば、足元でシェリーが「ふわん」と鳴いた。いつの間にか鍵盤の上から離れていた手を指摘されているようだと気付いて、萬狩は苦笑した。
「谷川も、きっとそれを忘れているんだろうな。あいつには、あの女がどれほど過激で強い女性だったか、メールで思い出させてやるか」