『でも、良かったよ、なんだかいいように変わったみたいだね。声が優しくなった』
「そうか? 特に何も変わっていないぞ」
『うん。そうか、そうだね。じゃあ、そういう事にしおこう』

 谷川は、早々にその話しを打ち切った。

『そういえば、君が注文していたお肉だけど、もう届いたかい? 取引先の武藤(むとう)さんが、是非よろしくってサービスしてくれたみたいだよ。まさか君が、誰かを招いて早々にバーベキューとは、驚きだよ。一体何があったんだい?』
「いろいろあったんだ」

 萬狩は、ぶっきらぼうに答えた。谷川は笑って、『では、こちらも詳細は聞かないでおこう』とあっさり身を引いた。

『で、お肉はきちんと届いてた?』
「昨日届いた。おかげで冷凍庫の容量が足りなくて、クーラーボックスを買う羽目になったぜ」
『そりゃいい』

 陽気に笑ってもどこか上品に聞こえる谷川が、続けて、上手い感じに口笛を吹いた。

『クーラーボックスは役に立つよ。君、一気に捨てちゃったものだから、僕の方でプレゼントしようかと悩んでいたぐらいだよ』
「そんなプレゼントは要らん」
『じゃあ釣り道具でもプレゼントしようか。それとも、サーフボードがいい?』
「俺はサーフィンなんて出来ないぞ」
『それなら、僕がそっちに遊びに行った時に教えてあげるよ』

 相変わらず幅広い趣味を持った男だ。ほぼ同年代とは思えないほど、谷川は現在も活発的で若々しい。

 萬狩は、谷川の話しを聞きながら、彼が仲西青年と早々に打ち解けて自分を振りまわす様子が容易に想像出来て、思わず沈黙した。

 谷川はそれに気付かず、今度バーベキューする時は是非そっちに行かなくちゃね、と楽しげに言った。

『君のとこの、お上品な犬に会えるのを楽しみにしているよ』
「勝手に言ってろ」
『あはは、照れちゃってまぁ』

 谷川は、武藤への礼状の送り先を丁寧に教えた後、メールでも詳細を送ると告げて、ようやく電話を切った。