「仲直り、ですか……?」
「そうだ」
「あなたは、何も悪い事をしていないのに…………?」
「そうなのか?」

 萬狩は、顰め面のまま「でも、お前は怒っていただろう」と胸の前で腕を組んだ。

「俺は生憎、息子達と喧嘩をした事もなければ、怒られた経験もない。だから、年長者に助言をもらった」

 仲西青年が目頭を押さえ、「なるほど」とぼやいた。彼実に悩ましげに数秒ほど黙りこんでいたが、ふっと肩の荷を降ろすような、深い、かなり深い溜息をもらした。

「僕の方こそ、ひどい事を言ってしまったなと、そう反省していたところです……。どう顔を会わせればいいのか悩んでいたら、本当に知恵熱まで出てしまって。萬狩さんの自宅の番号なんて僕が個人的に知っているはずもないし、かといって、会社から個人情報をもらうのは間違っているし、電話で言う内容でもないだろうし、と……」

 細々と話される声は、次第に小さく沈んで聞こえなくなった。

 仲西青年は、先日の自分の暴言に、相当ショックを受けているようだ。萬狩は眉を寄せて、「もういい」と彼の話しを遮った。

「俺達は仲直りをしただろう。だから、その話はもう無しだ」
「……萬狩さん、もしかして、仲直りもした事ないでしょう?」
「経験にないな」

 彼が断言すると、仲西は腰に片手をあてて「しょうがないなぁ」と寝癖頭をかいた。しかし、数秒もすると、仲西青年は頼りないほど幼い笑顔をこぼして「良かったぁ」と安堵の息を吐いた。

「僕、もう萬狩さんと友達でてられなくなっちゃうんじゃないかって、すごく心配していたんです」

 俺は、お前達と友人になったと一言も認めていないんだがな。

 というか、いつ友達になったんだ。

 萬狩は目で訴えたが、状況を考えて口には出さなかった。