目指す建物は、そこから市営団地を通り過ぎた先にあった。

 薄い桃色の真新しいペンキが目立つ三階建てのアパートは、この地区では比較的築年数の浅いもので、数年前までは新築物件だったらしい。

 一人暮らし向きの、やや広めの一LDKだと仲村渠からは聞いた。何度か遊びに立ち寄り、鍋を食べる事もあるという。お前ら、どれだけ仲が良いんだと萬狩は思ったが、深くは尋ねなかった。

 動物が飼えるという、この住宅街にあるアパートでは珍しい新築のアパートは、建物の表側に。全六室分の住人用の駐車場と駐輪場がついていた。

 萬狩は段差の低い階段を上がって、すぐの部屋の玄関の呼び鈴を押した。

 しばらくすると、内側から扉が開かれた。スウェットズボンとプリントTシャツという、ラフな格好で寝癖をつけた仲西青年が、出て来るなり玄関先で萬狩をむっつりと見つめ返した。

 寝不足なのか、仲西の顔には、僅かに隈の影があった。

「……なんで萬狩さんがココにいるんですか」

 そう低く呟いた仲西青年は、ふと、手で顔を押さえて「そうか、今日は仲村渠(なかんだかり)さんも診察に行っていたから……」と途端に腑に落ちたように呟き、自分を落ち着けるように溜息をこぼした。

「すみません。ちょっと体調を崩してしまっていたというか……、だから仲村渠(なかんだかり)さんにも、見舞いはいらないと連絡はいれようとは思っていて――」
「仲直りをしよう」
「は……?」

 開口一番の萬狩の台詞に、仲西が、虚を突かれたような呆けた表情を浮かべた。

 仲西は、萬狩の足元に礼儀正しく座ったシェリーの姿に気付くと、「あれ、もしかして散歩?」「え、萬狩さんが一人でシェリーちゃんを散歩って初めてじゃないの……?」と呆け、萬狩へと視線を戻すと、どういう事だろうと困ったように眉尻を下げた。