「本当は内間を連れて来たかったのですが、仲西が先週の金曜日から休んでしまっていて、内間が仲西の担当業務を全般的に請け負っているもので、忙しく都合がつかなかったのです……」
結局、青年がいる間、老犬は一度も姿を見せなかった。その間、仲村渠老人は食卓で熱いお茶を楽しんでいた。
青年が帰った後、シェリーが何食わぬ顔で奥の部屋から出てきた。仲村渠は彼女に気付くなり、「おいで」「良い子だねぇ」と呼び寄せ、すぐに診察を行った。
「この子にもね、好き嫌いはあるんですよ。大抵の場合は、まぁ出て来てはくれるんだけど、遠巻きに見ている感じですねぇ。あの彼の事は、大層気に入らないみたい」
診察が終わると、シェリーは、リビングの庭の見える位置でうたた寝を始めた。萬狩はテラス席で一服した後、当然の顔で食卓についている仲村渠の向かい側に腰かけた。
マイペースな老人獣医は、どこから取り出したのか、食卓の上にいくつか和菓子の袋を並べていた。そのうちの一つを手に取り、慣れたように袋を開け始める。
「仲西君と、喧嘩でもされましたか」
唐突に問われ、萬狩は一瞬、老人の言葉を理解するのに時間を要した。
問われた内容に思い至り、知らぬ素振りで茶を楽しむ仲村渠を居心地悪そうに睨みつけたが、結局諦めたように「喧嘩、みたいなものだろうか」と認めた。
「――そういえば、あなたは彼と仲が良かったな。あいつから話を聞いたのか?」
「海に飛び込んだ、とだけは聞きましたけど、仲西君、それ以降は黙りこんじゃって。なんだか様子が変だったのでねぇ」
まぁその後で噂はちらりと聞きましたが、と仲村渠は穏やかな口調で続けた
結局、青年がいる間、老犬は一度も姿を見せなかった。その間、仲村渠老人は食卓で熱いお茶を楽しんでいた。
青年が帰った後、シェリーが何食わぬ顔で奥の部屋から出てきた。仲村渠は彼女に気付くなり、「おいで」「良い子だねぇ」と呼び寄せ、すぐに診察を行った。
「この子にもね、好き嫌いはあるんですよ。大抵の場合は、まぁ出て来てはくれるんだけど、遠巻きに見ている感じですねぇ。あの彼の事は、大層気に入らないみたい」
診察が終わると、シェリーは、リビングの庭の見える位置でうたた寝を始めた。萬狩はテラス席で一服した後、当然の顔で食卓についている仲村渠の向かい側に腰かけた。
マイペースな老人獣医は、どこから取り出したのか、食卓の上にいくつか和菓子の袋を並べていた。そのうちの一つを手に取り、慣れたように袋を開け始める。
「仲西君と、喧嘩でもされましたか」
唐突に問われ、萬狩は一瞬、老人の言葉を理解するのに時間を要した。
問われた内容に思い至り、知らぬ素振りで茶を楽しむ仲村渠を居心地悪そうに睨みつけたが、結局諦めたように「喧嘩、みたいなものだろうか」と認めた。
「――そういえば、あなたは彼と仲が良かったな。あいつから話を聞いたのか?」
「海に飛び込んだ、とだけは聞きましたけど、仲西君、それ以降は黙りこんじゃって。なんだか様子が変だったのでねぇ」
まぁその後で噂はちらりと聞きましたが、と仲村渠は穏やかな口調で続けた