一週間かけて、夏バテと疲労から脱却し、萬狩とシェリーの生活は普段の気楽な日々に戻っていた。暑さも比較的落ち着いてきたこともあり、その頃には、シェリーの夜中の目覚めも極端に少なくなっていた。

 体調が戻った事を報告しつつ、再度仲西に謝ろうと思っていた萬狩だったが、九月に入った翌週の月曜日、彼は姿を見せなかった。

 やって来たのは仲西とは違う青年で、申し訳なさそうな顔で、仲西は体調を崩して休んでいるのだと告げた。

 恐らく、海に飛び込んでしばらく濡れたままだったのが原因だろうが、萬狩は内心、相当怒らせたらしいとも察して困ってしまった。迷惑を掛けた事は謝るが、萬狩としては、仲西のあの時の態度が気にかかってもいたのだ。

 仲西の代わりに配達にやってきた青年は、リストにあるペット用品を不慣れな様子で家に運び込んだ。ちょうどタイミング良く仲村渠獣医もやって来て、彼は、物珍しそうに「あの子、休みなの」と、萬狩と同じ事を青年に尋ねた。青年は、萬狩に答えたと同じようなを老人獣医に告げた。

「ふうん、夏風邪でも引いたのかねぇ。あの子って健康だけが取り柄だけど、根は単細胞のバ――おっほん――まぁ道理で、バーベキューの話をしようと電話をしても、出てくれなかった訳だ」

 単細胞のバカとは、なかなか手厳しい。しかし、的を射た評価でもあると萬狩は思った。

 青年が手早く運搬作業を行い、犬用トイレを洗浄している間、シェリーは姿を見せなかった。萬狩は何だか申し訳なく思ってチラリと謝ったが、青年は「問題ありません」と苦笑をこぼした。シェリーは仲西と内間、それから前担当者であった大城という女性以外、大人しく触らせてくれないのだという。