その時、萬狩は「おぉい」と、なんとも能天気な青年の声を聞いた。

 肩越しに振り返れば、向こうからシェリーを連れた仲西が、こちらに手を振ってやって来るのが見えた。仲西は手を振りながら、こう続けて叫んだ。

「もうお話は終わりましたかぁ? 向こうの売店にカキ氷がありましたよ! 美味しかったので、食べましょうよ~!」

 彼にとって、それは二回目のかき氷を指すのは明白で、萬狩は心底呆れてしまった。

 古賀もその声に気付いたようで、顔を向けながら「知り合いですか?」と若干怯えたような声で訊いた。人見知りらしいと察した萬狩は、「俺の知り合いだ」と不満げに答えた。

 その時、防波堤から、賑やかとは違う種類の声が聞こえたような気がして、萬狩と古賀は同時に目を向けた。先程まで釣り竿を持っていた少年達が、地面に手をついて海の方を覗き込んでいる。

「釣り竿を、魚にでも持って行かれたのでしょうか?」

 古賀が、不思議そうに首を傾けた。

 萬狩は彼に答えず、見軒にぐっと力を入れて防波堤を凝視した。彼は本能的に、ほぼ無意識に、防波堤に立っている子供の人数を確認していた。

 一人、二人、三人……全員で四人いたはずだが、そこには三人しかいなかった。一人足りない。

 気付いてすぐ、萬狩は、ハッとして立ち上がっていた。

「……落ちたんだ」
「え?」
「恐らく、子供が海に落ちてしまったんだと思う!」 

 萬狩は、言い終わらないうちに走り出していた。

 突然走り出してしまった萬狩を、古賀が慌てて追い駆けた。

 二人の異変に気付いた仲西が、向こうから問い掛けるような何かを言ったような気がしたが、萬狩は、優先順位を考えてその声を無視した。

 古賀が短い足で、重い身体を前へと進めながら「待って下さいッ」と既に息が切れた情けない声を上げた。