「何故そこでピアノなんだ」
「仕事部屋を見られそうになった時、散らかってるって言い訳した中で、うっかり口にしてしまったというか……その、『恥ずかしいけれど楽譜や練習用の電子ピアノもあって、ごちゃごちゃしている部屋だから開けないで』と伝えてしまったんです…………」
古賀は、その件に関して細々とした声で説明した。
どうやら彼女の方は、学生時代までピアノを習っていたらしい。音楽に興味がないと思っていた彼氏が、不器用ながらに、恐らく自分の影響で始めたのだと知り喜んだのだ、と古賀は言う。
萬狩は、随分と都合のいい頭をしている女性なのか、と悩ましげに頭の中を整理した。
つまり、彼女は疑う事なくそうだと信じ、自ら仮説を立てて彼氏である古賀に「そうなんでしょ。もうヤダッ、うれしー」と言い、その喜びで『秘密の部屋』の違和感について頭から飛んでくれた、という事だろう。
「……なんだか、知り合いを彷彿とさせる恋人だな」
「え、そうなんですか?」
「いや、こっちの話だ。忘れてくれ」
脳裏に浮かんだ仲西青年と、仲村渠老人の姿を、萬狩は打ち消した。
行動力があり、いつも笑顔で何かを楽しんでいて、小さくて可愛らしい女の子なのだと、古賀は照れたように自慢した。なんだ惚気かと萬狩は思いながら、自分の世界に浸り出した古賀を止められず「そうか」と適当に相槌を打って、海を眺めて過ごした。
それから、どれぐらい経っただろうか。さりげなく腕時計を確認すると、既に時刻は午後の二時二十分となっていた。
そろそろ痺れを切らしているかもしれない仲西青年と、シェリーの事が萬狩は気になった。この炎天下だ。奴の事だから、小まめに水分摂取を行って勝手に楽しんでいるんだろうが……
全く、俺は運転係じゃないんだぞ。
萬狩は、呑気に笑う青年の顔を苦々しく思い起こした。
「仕事部屋を見られそうになった時、散らかってるって言い訳した中で、うっかり口にしてしまったというか……その、『恥ずかしいけれど楽譜や練習用の電子ピアノもあって、ごちゃごちゃしている部屋だから開けないで』と伝えてしまったんです…………」
古賀は、その件に関して細々とした声で説明した。
どうやら彼女の方は、学生時代までピアノを習っていたらしい。音楽に興味がないと思っていた彼氏が、不器用ながらに、恐らく自分の影響で始めたのだと知り喜んだのだ、と古賀は言う。
萬狩は、随分と都合のいい頭をしている女性なのか、と悩ましげに頭の中を整理した。
つまり、彼女は疑う事なくそうだと信じ、自ら仮説を立てて彼氏である古賀に「そうなんでしょ。もうヤダッ、うれしー」と言い、その喜びで『秘密の部屋』の違和感について頭から飛んでくれた、という事だろう。
「……なんだか、知り合いを彷彿とさせる恋人だな」
「え、そうなんですか?」
「いや、こっちの話だ。忘れてくれ」
脳裏に浮かんだ仲西青年と、仲村渠老人の姿を、萬狩は打ち消した。
行動力があり、いつも笑顔で何かを楽しんでいて、小さくて可愛らしい女の子なのだと、古賀は照れたように自慢した。なんだ惚気かと萬狩は思いながら、自分の世界に浸り出した古賀を止められず「そうか」と適当に相槌を打って、海を眺めて過ごした。
それから、どれぐらい経っただろうか。さりげなく腕時計を確認すると、既に時刻は午後の二時二十分となっていた。
そろそろ痺れを切らしているかもしれない仲西青年と、シェリーの事が萬狩は気になった。この炎天下だ。奴の事だから、小まめに水分摂取を行って勝手に楽しんでいるんだろうが……
全く、俺は運転係じゃないんだぞ。
萬狩は、呑気に笑う青年の顔を苦々しく思い起こした。