「ちゃんと棚も分けています。でも、同人の方の仕事が圧倒的に多いから、その原稿や資料や、見本の漫画が沢山ある部屋なんです」
「仕事部屋とはそういうものだろう」
萬狩の書斎もオフィスも、会社が落ち着くまでは収拾のつかない場所だった。そんなものは、時間が出来るまでそのままに使ってしまう方が効率もいい。
しかし古賀は、途端に泣きそうな声で「それが駄目なんですぅ」と再び両手で顔を覆った。
「実は、ぼく、付き合っている子がいるんですけど、その子には同人の事は隠してあるんですよッ」
「――は」
なんだそれは、実にくだらん悩みじゃないか!
萬狩は一瞬、表情筋が引き攣りそうになった。けれど、あまりにも古賀の激しい落ち込みようを見て、ひとまず酷な言葉は掛けられないと譲歩したうえで、言葉を言い改めた。
「信頼し合っているのなら、白状しても問題ないだろう。付き合って一年ぐらいか?」
「いえ、六年です」
「それでよくバレなかったな」
顔を上げてきっぱりと答えた古賀に、萬狩は、思わず声を荒上げそうになった。
こちらへ移住してからというもの、どうも冷静さを欠かせるような輩が多いような気がして、萬狩は「なんだかなぁ」と項垂れた。
本題を切り出した事で、古賀は数刻前の切羽詰まった感覚が戻ってきたのか、萬狩の方へ身体を向けると、身振り手振りに話を続けた。
「彼女の方が、先に転勤で沖縄に住んでいたんです。しばらくは遠距離だったんですけど、その、ぼくの仕事も落ち着いてきて、こうやって移住出来た事もあって、そろそろ同棲したいって話が出ていて……」
「そんなものは白状してしまえばいい」
萬狩は、遠い目で間髪開けずに告げた。頭の中では、恋人なら近くに住んでいた時に家を行き来する事はあるはずで、やはり、それでよくバレなかったなという感想が、ぐるぐると回っている。
「仕事部屋とはそういうものだろう」
萬狩の書斎もオフィスも、会社が落ち着くまでは収拾のつかない場所だった。そんなものは、時間が出来るまでそのままに使ってしまう方が効率もいい。
しかし古賀は、途端に泣きそうな声で「それが駄目なんですぅ」と再び両手で顔を覆った。
「実は、ぼく、付き合っている子がいるんですけど、その子には同人の事は隠してあるんですよッ」
「――は」
なんだそれは、実にくだらん悩みじゃないか!
萬狩は一瞬、表情筋が引き攣りそうになった。けれど、あまりにも古賀の激しい落ち込みようを見て、ひとまず酷な言葉は掛けられないと譲歩したうえで、言葉を言い改めた。
「信頼し合っているのなら、白状しても問題ないだろう。付き合って一年ぐらいか?」
「いえ、六年です」
「それでよくバレなかったな」
顔を上げてきっぱりと答えた古賀に、萬狩は、思わず声を荒上げそうになった。
こちらへ移住してからというもの、どうも冷静さを欠かせるような輩が多いような気がして、萬狩は「なんだかなぁ」と項垂れた。
本題を切り出した事で、古賀は数刻前の切羽詰まった感覚が戻ってきたのか、萬狩の方へ身体を向けると、身振り手振りに話を続けた。
「彼女の方が、先に転勤で沖縄に住んでいたんです。しばらくは遠距離だったんですけど、その、ぼくの仕事も落ち着いてきて、こうやって移住出来た事もあって、そろそろ同棲したいって話が出ていて……」
「そんなものは白状してしまえばいい」
萬狩は、遠い目で間髪開けずに告げた。頭の中では、恋人なら近くに住んでいた時に家を行き来する事はあるはずで、やはり、それでよくバレなかったなという感想が、ぐるぐると回っている。