「お前、内容と表情が噛み合っていないぞ。その仕事は、そんなにきついのか?」
「いいえ。すごく稼げますし、ファンの人も情熱的な方が多いし、世話になっている数社の出版社からは、次は何時頃原稿が仕上がりそうかって催促もあるし……」
つまり、そのジャンルの世界では有名な作家、という事だろう。
何がそんなに不満なのだ、と萬狩は訝った。漫画家という職業を良しとも悪とも思った事はないが――息子がそのような職業に就きたいと言えば、将来の安定が約束されているわけではないから反対はするだろうが――手に職の仕事だ。自分の時間が多くとれるとあって、若い者にとっては、さぞ羨ましい職業に違いないとは思える。
萬狩がそう考えているそばで、古賀が、口の中でもごもごと話しを続けた。
「対象読者も、テーマも違うジャンルだけど、やってみると楽しくて、だから後悔はしていないんです。まだ若いから、頑張れば今持っている少年向けの雑誌の連載でも、いつかは食っていけるようになるだろうし……」
「台詞だけは前向きだな」
萬狩は、何だか彼が分からなくなってしまった。
互いに同じ言語を話しているはずなのに、仲西や仲村渠のように、会話のキャッチボールが噛み合わないでいるような気がする。
古賀は顔を上げると、まるで会社をリストラされたサラリーマンのように、遠い目で海を眺めた。
「同じ場所で、描いているんです」
唐突に、古賀はそう言った。
前後の脈絡に話が見えない切り出しに、萬狩は思わず「は?」と間の抜けた声を上げた。しかし、萬狩は数秒で漫画の事だと思い至り「そうか」と相槌を打った。
「まぁ、ペンネームを使い分けているとはいえ、そうなるだろうな」
「それが問題なんです」
「よく分からないな。整理整頓が上手くできないのか?」
尋ねてみると、古賀は、やんわりと首を左右に振った。
「いいえ。すごく稼げますし、ファンの人も情熱的な方が多いし、世話になっている数社の出版社からは、次は何時頃原稿が仕上がりそうかって催促もあるし……」
つまり、そのジャンルの世界では有名な作家、という事だろう。
何がそんなに不満なのだ、と萬狩は訝った。漫画家という職業を良しとも悪とも思った事はないが――息子がそのような職業に就きたいと言えば、将来の安定が約束されているわけではないから反対はするだろうが――手に職の仕事だ。自分の時間が多くとれるとあって、若い者にとっては、さぞ羨ましい職業に違いないとは思える。
萬狩がそう考えているそばで、古賀が、口の中でもごもごと話しを続けた。
「対象読者も、テーマも違うジャンルだけど、やってみると楽しくて、だから後悔はしていないんです。まだ若いから、頑張れば今持っている少年向けの雑誌の連載でも、いつかは食っていけるようになるだろうし……」
「台詞だけは前向きだな」
萬狩は、何だか彼が分からなくなってしまった。
互いに同じ言語を話しているはずなのに、仲西や仲村渠のように、会話のキャッチボールが噛み合わないでいるような気がする。
古賀は顔を上げると、まるで会社をリストラされたサラリーマンのように、遠い目で海を眺めた。
「同じ場所で、描いているんです」
唐突に、古賀はそう言った。
前後の脈絡に話が見えない切り出しに、萬狩は思わず「は?」と間の抜けた声を上げた。しかし、萬狩は数秒で漫画の事だと思い至り「そうか」と相槌を打った。
「まぁ、ペンネームを使い分けているとはいえ、そうなるだろうな」
「それが問題なんです」
「よく分からないな。整理整頓が上手くできないのか?」
尋ねてみると、古賀は、やんわりと首を左右に振った。