萬狩は聞き慣れない言葉に「なんだって?」と彼の方に顔を向けていた。
「俺は漫画を読まないから、よく分からないんだが」
「――そ、そうですよねッ。なんというか、その、女性向けの小奇麗な感じの漫画、といいますか」
慌てたように語る彼が、萬狩には不思議でならなかった。まるで、己の職業を恥じているように感じてしまう。
「出版もされている漫画なんだろう? 漫画家になれる人間は一握りだと聞くぞ。仕事としてやれているそれの、何が問題なんだ?」
萬狩が不思議に思って尋ねると、古賀は、太く短い腕を組んで「うーん」と悩ましげに首を捻った。
「漫画を読む人なら知っている事なんですけど、その、あまり声を大にして語れるようなジャンルでもないし、だいたいの人が、大手の少年少女雑誌の漫画家を目指しながら、ぼちぼち書いてこっそり出しているような漫画でもあるというか……だから、ペンネームも二つ持ちでして…………」
「つまり、隠さなければならないというわけか?」
「まぁ、そうですね。ぼくは男性ですし、あのジャンルは特に、ぼくらの世代だと恥ずかしさもあるというか……」
でも、本職として食べていける作家さんの数もまた少ないんですよね……、と古賀は死んだような声で続けた。組んだ腕を解いて項垂れ、重い溜息を吐く。
「読者は女性ですから、好みもはっきりしていて、続けて出版出来る人は限られてくるんですよ」
「なんだ。君は売れないから悩んでいるのか?」
萬狩は、切羽詰まったような先刻の出会いを思い出した。しかし、古賀は更に沈んだ声で「違います」と両手で顔を覆った。
「……僕、同人作家としては五年目なんですけど、持っている正規の連載漫画よりも、同人の雑誌と単行本の方が、すごく売れているんです……はぁ」
「俺は漫画を読まないから、よく分からないんだが」
「――そ、そうですよねッ。なんというか、その、女性向けの小奇麗な感じの漫画、といいますか」
慌てたように語る彼が、萬狩には不思議でならなかった。まるで、己の職業を恥じているように感じてしまう。
「出版もされている漫画なんだろう? 漫画家になれる人間は一握りだと聞くぞ。仕事としてやれているそれの、何が問題なんだ?」
萬狩が不思議に思って尋ねると、古賀は、太く短い腕を組んで「うーん」と悩ましげに首を捻った。
「漫画を読む人なら知っている事なんですけど、その、あまり声を大にして語れるようなジャンルでもないし、だいたいの人が、大手の少年少女雑誌の漫画家を目指しながら、ぼちぼち書いてこっそり出しているような漫画でもあるというか……だから、ペンネームも二つ持ちでして…………」
「つまり、隠さなければならないというわけか?」
「まぁ、そうですね。ぼくは男性ですし、あのジャンルは特に、ぼくらの世代だと恥ずかしさもあるというか……」
でも、本職として食べていける作家さんの数もまた少ないんですよね……、と古賀は死んだような声で続けた。組んだ腕を解いて項垂れ、重い溜息を吐く。
「読者は女性ですから、好みもはっきりしていて、続けて出版出来る人は限られてくるんですよ」
「なんだ。君は売れないから悩んでいるのか?」
萬狩は、切羽詰まったような先刻の出会いを思い出した。しかし、古賀は更に沈んだ声で「違います」と両手で顔を覆った。
「……僕、同人作家としては五年目なんですけど、持っている正規の連載漫画よりも、同人の雑誌と単行本の方が、すごく売れているんです……はぁ」