子供というのは、実に恐ろしい生き物だ。

 直接私を虐げて喜ぶ者も多い。私のような小さな存在を引っ張り回し、ひどい時には道具を使って暴力を振るう。「可哀そう、やめてよ」という他の子も、目はどこか愉快そうに嗤っていた。


 嗚呼、馬鹿馬鹿しい。


 私は心の中で吐き捨てた。相手が人間でなければ、何をしても許されるなどと、一体誰が決めたのか。

 確かに私は人間ではないが、生きる権利はある。

 私は形だけのおもちゃとは違う。ここで、こうして、確かに今を生きているのだ。

「今年も夏休みの宿題、たくさん出るかなぁ」
「出るよ、去年もいっぱいだったもん」
「自由研究は面倒臭いよなぁ」
「適当にやればいいって」

 ぎゃははは、と大口で笑いながら、色違いのランドセルを背負った小さな人間たちが通り過ぎていった。それがしばらく続いたかと思うと、今度は彼らより少し大きい、同じ制服を着た人間の子供たちが通り始める。

 どのくらい息を潜めていただろうか。騒がしい子供らの声が通りから少なくなった頃、割れ広がった灰色の雲の向こうの空に目を向けてみれば、茜色の輝きは弱々しくなっていた。

 それを見上げて、もう日が沈むことを私は悟った。

 辺りを見やってみると、車や店には既に光が灯り始めていた。今日も、朝から続いていたこの通りでの一日が終わる。

 もう少しで、先ほどの女が本日最後のご飯を持ってくるだろう。

 身を低くしたまま、私は少しだけ顔を出して例の女を待った。

 私はまだ小さい身だが、馬鹿ではない。まだ人間の子供たちが通りにいるのに、空腹だからといって姿を晒してメシを要求するなどといった危険はしない。