デイブレイク・ムーン


「あの、そろそろ説明してもらってもいいですか」

今いるのは暗くて狭い路地。お互いの距離はかなり近い。
私は早くこの場を去りたいのに、彼の手が離れない。

「全く、この世界の住人は器が小さいな。俺はただ探し物をしていただけだというのに」

あ、これは人の話を聞いてくれないやつだ。
私の声は聞こえているはずなのに、彼は自分の話を続ける。それに対して冷たい視線を投げた。

「おまわりさーん、この人でーす」

「おっと、あまり大きな声を出されては困るな」

明らかに棒読みだったけれど反応してくれた。
もちろん誰かに知らせるつもりはなく、彼の意識をこちらへ向けさせるために言った。

「用がないなら帰っていいですか?」

「それも困る。でも君を探していたのは本当だ」

「だから私はあなたのことを」

二度目のやり取りに嫌気が差して放つ声が大きくなった。

有明 灯(ありあけ あかり)さん」

「……!」

私の名前を呼んだ彼と目を合わせる。

「他にも知っているぞ?歌を歌うことが好きで、人と関わるのが苦手で、雷が怖い……」

「あぁー!もういい!分かったから!」

初めて彼の話を遮った。

今言われたことは全て事実だ。従姉妹にすら話したことがないのに、なぜこの人は知っている……?


「ほんと、なんなんですか」

気味悪がって視線を逸らした。

「君のことは小さい頃から知っている」

「え……」

その声は優しくて私を落ち着かせるようなものだった。
しかし状況が悪すぎる。
まるで弱みを握られているみたいで怖くなった。身内でもなければ、学校の関係者でもない。もしかしてストーカー?


私の後ろは行き止まり。逃げるには彼の横を通らなければならない。

覚悟を決めて光に照らされている道へ逃げようと足に力を入れた。
けれど彼の手が腰に添えられ、私はそのまま引き寄せられた。

「なに」

「シー」

彼は私の唇に人差し指を当て何かを囁いているが、私の記憶はそこで途切れた。