エネルギー源のある屋上へは誰でも立ち入ることができるけれど、滅多に人は来ない。

 外階段を上り終えた時には雨が上がっていた。
 建物から見て左側。湖に近い場所。

 「あった」

 大きな土台の上にある大きな丸の中に入った光るもの。
 これがエネルギー源。その輝きは強すぎて、ずっとは見ていられない。

 私は横目に町が見える場所に立ち、原石を胸の前から少し離した位置で持った。

 これで自分の声で歌うのも、自分の歌声が聞けるのも最後。悔いのないように歌いたい。
 私は目をつぶり、息を吸った。


 ――♪


 私の声が、歌が、聞こえる。

 ねぇ、聞こえてる?お母さん。
 届いていますか?クラネスさん。


 私は、誰かの役に立てたかな。ここにいる意味を、成し遂げられたかな。
 この町が、クラネスさんが、みんなが、私のことを受け入れてくれた。だから今の私がいる。この想いが少しでも届くといいな。

 私を認めてくれて、ありがとう。
 居場所をくれて、ありがとう。
 好きになってくれて、ありがとう。

 ……。


 歌い終わり、そっと目を開けた。

 見上げると曇り空の隙間から差した光が私を照らしていた。天使の梯子と呼ばれるものがスポットライトのように、屋上を照らしている。

 すると手に持っていた原石が熱を帯び、歯車が動き始めた。周りに散らばる光の粒も小さく輝く。
 前のエネルギー源よりも静かで大人しい。これなら町全体を優しく見守ってくれそうだ。
 これが、クラネスさんの作った新しい……。


 ――ピキッ。
 嫌な音がした。

 ガラスに(ひび)が入る音。それは次第に多くなり、大きくなっていく。

 そんな中、遠くから走ってくる足音が聞こえていた。


 ドーーーン。


 「うあぁぁぁ!」

 屋上にあった大きなエネルギー源が壊れた。
 エネルギーが爆発し、それを覆っていたガラスが割れて辺りに破片が散らばる。
 私は爆風と一緒に吹き飛ばされた。
 舞う破片がスローモーションに見え、こんな時でさえ綺麗だと思った。それ以外なにも考えられなくなり、意識が遠のく。


 「あかりー!!!」


 今まで聞いたことのない力強い叫びが聞こえる。
 返事をしなきゃ……したいのに、地面に打ちつけられた体が全く動かない。


 「灯!」

 朦朧とする意識の中、誰かが駆け寄ってくるのが見えた。
 体中が痛い。呼吸をするのも辛い。声を出すこともできなくなってしまいそう。

 「クラネスさん……」

 絞り出した声はすぐに消える。
 それでも彼は、私の体を抱き寄せてくれた。

 「灯」

 私はクラネスさんの姿を見て安心した。
 だけど彼は、複雑な感情が入り交じった顔をしている。
 でも今は早くこれを渡さないと。

 「……成功ですよ」

 吹き飛ばされてもクラネスさんが作ったエネルギー源だけは離さずに抱きしめていた。
 本当はかっこよく立ち上がって安心させたいのに。

 「ちゃんと、動いた……」

 腕にある原石を見せたいと脳に信号を送っても、体は動かない。

 「もう喋るな。もう、何も言わなくていい」

 最後に聞こえた声は震えていた。

 その後、何を言われたのか分からないけれど、彼の腕で強く抱きしめられていたのは分かった。
 よく知った温もりの中、私は意識を手放した。