町の中を吹き抜ける風が心地良い。賑やかな場所もいいけれど、こういう時間も落ち着く。

 この店の外は目の前を遮る建物がなく、遠くの景色まで見える。
 少しの間、私たちはパーティーを抜け出していた。

 「パーティーって楽しいですね。初めて知りました」

 過去にこういった集まりがあっても避けてきた私にとっては初めての経験だった。

 「俺もだ。こんな大勢が集まる場なんて今までになかったからな」

 「楽しんでもらえてなによりです」

 お互い顔を合わせることなく、ここから見える町を眺めながら話す。

 「この町へ来た時は早く帰りたいって思ってましたけど、今は少しだけ帰るのが寂しかったりしてます」

 私の言葉に彼はそっと耳を傾けてくれている。

 「自分で見て、感じて、考えて、色んな思いに触れてきました。その中で、この町は私の心の奥で眠っていた本当の思いに気づかせてくれました。ここで過ごした時間は、私にとって大切なものになりました」

 身体をクラネスさんの方へ向けると、目を合わせてくれた。

 「クラネスさん。一人でいた私を連れ出してくれて、ありがとうございます」

 今日一番伝えたかったこと。
 全ての始まりはこの人との出会いから。クラネスさんがいなければ、今も私はあの部屋に閉じこもったままだっただろう。

 クラネスさんは、私の笑顔に照れているように見えた。

 「俺は誘拐犯じゃなかったのか?」

 「誘拐犯でも、いい人でした。私にとっては、す……」

 「ん?」

 「いや、なんでもないです!」

 好きな人ですから。なんて気持ちは奥にしまっておこう。
 なんでもないと言ったことについて、それ以上追求されることはなかった。けれど彼の表情は、どこか浮かなかった。

 「あかっ」
 「アカリ姉ちゃん!」

 クラネスさんに名前を呼ばれた気がしたけれど、タイミングよく中にいる子からも名前を呼ばれ、そちらに反応してしまった。

 「行っておいで」

 何と言おうとしていたのか聞く前に背中を押された。

 「あ、じゃあこれ!クラネスさんのために作ったので、よかったら食べてください!」

 勢いに任せてカップケーキの入った紙袋を渡した。

 「さっきの続き、また後で聞かせてくださいね」

 私は流れるようにしてこの場を去った。


 そして中に入ると子どもたちに囲まれてしまった。

 「アカリごめん。こいつらどうしてもって聞かなくてさ」

 サージくんが困ったように言った。
 「どうしたの?」と聞き返すとリンちゃんが隣に来て教えてくれた。

 「お姉ちゃんの歌が聞きたいなって」

 「歌?」

 「前に聞いた時とっても素敵だった!」
 「もう一回聞きたい!」

 期待の視線を寄せられているけれど、ここで歌うと他の人たちにも聞かれてしまう。
 聞かれて困ることではないけれど、なんだか恥ずかしい。

 「あ、それならみんなも一緒に歌おうよ」

 私の言葉にみんなは頷いてくれた。
 そして賑やかなパーティー会場に、可愛らしい歌声が響き渡った。