「あ、すみません」

前を歩く背中にぶつかってしまった。少し顔を上げて確認すると、相手は自分よりも三十センチほど背の高い男性だった。

最悪だ。

怒るなり無視するなり何でもいいから早くどこかへ行ってほしい。
心の中で祈ったけれど、男性は振り向いて私の顔を覗き込んだ。

「あれ……君は」

その第一声を聞いて心臓が跳ね上がった。
やばい、これ絡まれるやつだ。

「すみません私急いでるので」

来た道を戻ろうと体の向きを変えた瞬間、彼に腕を掴まれた。

「やっと見つけた」

「え!?」

掴んでいる手にそれほど力は込められていないのに振り解けない。
私は怖くなって足を引いた。

「あなたのこと知りませんけど」

「悪いが話は後だ。少々厄介者に絡まれていてね」

いや、進行形で私が絡まているのですが?

「おーい!その男を捕まえてくれ!」

「へ?」

男性の後ろから警察官がこちらへ走ってくるのが見えた。

もしかして絡まれてる厄介者って警察!?
これ思ったよりまずい状況なんじゃ……。

この人から離れなきゃ。そう思った時には手遅れで、彼は私の腕を掴んだまま走り出した。

本当に最悪。
やっぱり家から出なければよかった。