「えぇお姉ちゃんもう帰っちゃうの?」
 「アカリまたね!」
 「また遊びに来てほしいな」

 私は、見送りに来てくれた子どもたちが見えなくなるまで手を振り続けた。

 またね、か。私にこの町での"また"あるのだろうか。



 お互い一言も話さないまま、二人の足音だけが聞こえる帰り道。夕日に伸びる影が大きく見える。

 「クラネスさん、私は大丈夫ですよ」

 隣を歩く彼に、前を向いたまま言った。
 おひさま園を出るまで崩さなかった笑顔に本音を隠しているように見えて、私はそれに心当たりがある。

 「あれがこの町についての、最後の秘密だったんじゃないですか?全て知るまで時間かかっちゃいましたけど」

 クラネスさんはオルドさんがあの話をすることを知っていたと思う。その上で、私をあの場にいさせた。

 「……本当は今日までに話そうと思っていたが、どうしても不安が消えなくてな。すまない」

 話を聞いた私が何を思うのか。ショックを受けるか、はたまたあっさり受け入れるのか。どちらにしても複雑な感情に抑え込まれる可能性はあった。
 クラネスさんはそれを恐れて話さなかった。私のことをよく知っているから、一番近くにいるから言えなかった。
 けれどそれは以前までの私なら、の話。

 「心配しすぎですよ。そんなんじゃ私が帰る頃には寂しくて離れたくなくなっちゃいますよ?」

 冗談ぽく笑ってみせた。これは私の勘違いであってほしかったから。

 「そうかもしれないな」

 少し前のあなたに同じことを言っても、その言葉を返されていただろう。だけど、そんな顔では答えないはずだ。

 「そこは否定してくれないと嫌ですよ」

 自分の気持ちに蓋をするように言った。
 そんな悲しそうに笑わないで。私たちは本来交わらない存在で、私は元の世界へ帰らなければならない。

 もう二度と会うことのない相手に、好意を持ってどうするの。