この町へ来て三週間が経とうとしている。たったこれだけというか、もうこんなにというか。私もこの町の暮らしに随分と慣れたものだ。
「アリナさん、おはようございます」
「アカリちゃんおはよう。この間は助かったわ、シチューもとっても美味しかった」
「困った時はお互い様ですよ、また何かあれば声かけてくださいね」
朝市で会ったアリナさん。怪我をしていて料理が作れないと困っていたので、荷物運びを手伝った後、シチューを作らせてもらったのだ。料理はお菓子作りより得意ではないけれど、基本レシピ通り作ればなんとかなる。
「アカリちゃん!気になってるって言ってたカップ入荷したよ」
「アカリさん、今度家でとれたお野菜持ってくね」
「アカリちゃーん!」
すごい、私の名前を呼んでくれる人たちがいる。
少しずつではあるけれど、町の人たちに積極的に声をかけるようにして数日。
「いつかの俺みたいになってるな」
「クラネスさんより全然ですよ。だけど嬉しいですね、名前を呼んでもらえるのは」
知らない人に囲まれて困り果てていた頃が嘘みたいだ。
この町は私に、顔を上げなければ見えないものもあると教えてくれた特別な居場所。だから今日も前を向いて歩く。
「ここが例の場所ですか?」
私たちはある建物の前に着いた。二階建てで、入口の横には[おひさま園]と書かれてある。
「あ!クラネスだ!」
中から明るい声が聞こえてきた。
「クラネスさんと、あと誰かいる!」
二人の子どもがこちらに駆け寄って来る。
「今日お前たちと一緒に遊んでくれるアカリお姉さんだ」
クラネスさんが私を紹介してくれた。段取り通りの言葉とはいえ、お姉さんは慣れないな。
私は彼らの前にしゃがみこんで挨拶をする。
「よろしくね。カイくん、アズキちゃん」
私の言葉に二人は目を輝かせていた。
するとまた一人、建物から出てきた。
「クラネスさん、アカリさん。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、忙しいのに悪いなオルド先生」
先生と呼ばれるこの人は、おひさま園の主任オルド・ジェイス。本来の姿は幽霊。人間の姿だとエプロン姿が印象的な優しい先生だ。
訪ねた理由はもちろん材料の交渉であるけれど、今回はそれだけではない。
「いえいえ、助かりますよ。子どもたちも楽しみにしていましたから」
「私も楽しみです!」
今回の私の役目は、おひさま園にいる子どもたちと一緒に遊ぶこと。