今日はクラネスさんと一緒に朝市へ来ていた。
 カラフルなテントの下に並ぶ野菜や果物、花や雑貨など様々な品。飛び交う声の中にいると、こちらまで楽しくなる。

 キツネに魔女に半魚人、のっぺらぼうに鬼。天狗にカッパに、洋服を着こなすガイゴツ。
 私の目に映るのは、人が見る夢に出てくるキャラクターたち。

 「ここって種族問わず様々なキャラクターたちがいる物語の交差点みたいですよね。色んな場所へ行き来するための通過地点。こんなことを言うのは無責任かもしれませんが、素敵な場所ですよね」

 呟くとクラネスさんが私の方を向いた。

 「灯、コンタクト……」

  そんな驚いたように不安気な顔をされても困る。
 今まで多くの人が集まる場所でコンタクトをつけていなかった私のせいでもあるけれど。
 一度に多くの刺激を受けるとどうなるか分からなかったので今日まで避けていたけれど、もう大丈夫だ。

 「実は今つけてます」

 そう言って目元を指した。そこに映るクラネスさんの姿はいつもと変わらない。

 彼は私を見て笑っていた。

 「灯の考え方はメルヘンチックだな」

 「うるさい」

 「ここがそんなに素敵な場所に見えるのか?」

 「私、嘘は嫌いなので」

 半分苛立ち気味で答えた。
 そんなやり取りをしていた時。

 「クラネス」

 目の前にいた人に声をかけられた。

 「クロムか。声をかけてくるなんて珍しいな」

 この人がクロムさん。
 身長はクラネスさんよりも少し高い。トレンチコートを着て、帽子を深々と被っているため顔がよく見えない。

 「君がクラネスの言っていた助手の子かな?」

 「あ、アカリと言います」

 モモさんの言っていた通り、柔らかい雰囲気で穏やかな話し方をする人だ。

 「今日の午後だけど、図書館にある談話室に来てくれるかな?」

 交渉の件、場所は図書館というのは聞いていた。クロムさんは図書館の関係者なのだろうか。

 「はい、分かりました」
 
 話が終わるとクロムさんは町の中へ消えていった。

 「よかったんですか?話さなくて」

 二人は一言言葉を交わしただけで、それ以外は何も話していなかった。

 「今更話すようなことはないな」

 「そんなに長い付き合いなんですか?」

 「それも全部クロムが話してくれるだろ」

 クラネスさんの口からクロムさんのことは何も聞けなかった。

 先程クロムさんに声をかけられた時、クラネスさんは珍しいと言っていた。それは、よく朝市にはいるけれど声をかけることは滅多にないということ。タイミング的に私たちのことを前から見ていたようにも思う。
 それでも私は全く気づかなかった。声をかけられるまで、クロムさんがいることに。