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一体なにがあったのか。目が覚めると朝で、私は布団の中にいた。
確か昨夜はリィンさんから呼び出され、シュベルトさんの店にいたはず。
だめだ、思い出せない。
帰りの記憶が全くない。
クラネスさんに聞いたところ、声をかけても起きなかったから連れて帰ったと言われた。
まさかそんなことになっていたとは。また迷惑をかけてしまった。
最悪だ。
内心かなり焦っている。気が緩んでしまっているのか、寝顔を見られたのこれで二回目だ。
しかも連れて帰ってもらうとか、子どもじゃないんだし。ちゃんと起きようよ自分。
過ぎたことを悔やんでも仕方がないのは分かっているけれど、初めてのお酒でこれは結構引きずる。
クラネスさんには、起きてから何度も謝った。
次から気をつけろって言われたけど、当分飲まない。
コップ一杯の水を飲んで、私は外へ出た。
今日の午前はシュベルトさんの家に頼まれたものを取りに行く。
予定があったクラネスさんに変わって私が行くことになったのだけれど、受け取る品は研究に関するものとしか聞いていなかった。
昨日ぶりの酒場。店の隣にシュベルトさんは住んでいる。
「悪いな、わざわざ来てもらって」
「いえ、全然です」
玄関先で渡された紙袋に入っていたのは、透明なガラスの箱だった。
これは直接的に材料になるというわけではなく、完成したものを入れて保管するものらしい。特殊な加工がされていて、開けるためには暗号が必要だとか。
「そういや、昨日は大丈夫だったか?」
「あっ」
できれば掘り返されたくはなかったけれど、私のことを心配してくれているのは分かっていた。
「ご迷惑おかけしてすみませんでした。もう大丈夫です」
そう伝えると、元気そうで安心したと笑ってくれた。
「それじゃあ、一歩大人になったお嬢さんにある秘密を教えてをあげよう」
「秘密?」
シュベルトさんはなぜか小声で教えてくれた。
「クラネスのことだ。お嬢さん、最近仲良いだろ」
仲が良いと言われれば、悪くはないんだろうけど。なぜこうも短期間のうちに同じようなことを言われるのか。
「お嬢さんは、エネルギー源の材料リストを見たことあるか?」
「リスト?初めて聞きました」
そんなものがあったんだ。でもなぜそれをシュベルトさんが知っているんだろう。
「臆病なあいつのことだ、まだ話してないんだろうな。暇な時にでもそのリストを探してみな」
これ以上話すのはクラネスに悪いからと言われ、この話は終わった。
いつも必要な材料は口頭で教えてもらってたし、リストを作っていることは聞いていなかった。
私がそれを見たところで何かあるのだろうか。
家に帰ると、運がいいのか悪いのかクラネスさんはいなかった。
申し訳ないと思いながらも、作業部屋に入り例のリストを探させてもらうことにした。
本棚とか引き出しとか、探す場所はいっぱいあるけれど、案外こういうものはテーブルに置いてあったりして。
テーブルの上に束ねられている資料や本を一つずつ見ていく。
すると不自然に本に挟まれている一枚の紙を見つけた。
あ、本当にあった。
そこには今まで集めたものと、これから集めるものの名前と持ち主が書かれてある。
上から順に見ていくと、目についたのは一番下。
ここだけ塗り潰されていた。必要ないから消したのだろうか。
……気になる。
光にかざしたら読めないかな。
私はテーブルの上のライトをつけ、再びリストを見た。
「有明灯。私の名前がある」
塗り潰されていた部分には名前と何かが書かれてあった。
「……」
静かだった部屋にドアの開く音が響いた。それを聞いて、持っていたリストを慌てて戻す。
こういう時、焦りは禁物だ。落ち着いて何事もなかったかのように振る舞えば大丈夫。そう言い聞かせながら部屋を出た。
「クラネスさん」
タイミングよく鉢合わせは避けられ、その人はリビングにいた。
「今からモモさんのところへ行ってきます」
今日の午後からはモモさんとの約束があった。
少し早いけれど、今はこの場から立ち去りたい。
「そうか、気をつけてな」
早足で玄関まで向かうと、再びクラネスさんに声をかけられた。
「四つ目の材料の持ち主と会う日が決まった。明日の午後、クロム・ランナイトという者を訪ねてほしい」
「もしかしてアポ取ってくれてたんですか?」
「そうだ。あと今回は一人で行ってもらえないか?俺がいない方が、あの人も話しやすいだろうから」
「分かりました」
私は最後まで平然を装っていた。
一体なにがあったのか。目が覚めると朝で、私は布団の中にいた。
確か昨夜はリィンさんから呼び出され、シュベルトさんの店にいたはず。
だめだ、思い出せない。
帰りの記憶が全くない。
クラネスさんに聞いたところ、声をかけても起きなかったから連れて帰ったと言われた。
まさかそんなことになっていたとは。また迷惑をかけてしまった。
最悪だ。
内心かなり焦っている。気が緩んでしまっているのか、寝顔を見られたのこれで二回目だ。
しかも連れて帰ってもらうとか、子どもじゃないんだし。ちゃんと起きようよ自分。
過ぎたことを悔やんでも仕方がないのは分かっているけれど、初めてのお酒でこれは結構引きずる。
クラネスさんには、起きてから何度も謝った。
次から気をつけろって言われたけど、当分飲まない。
コップ一杯の水を飲んで、私は外へ出た。
今日の午前はシュベルトさんの家に頼まれたものを取りに行く。
予定があったクラネスさんに変わって私が行くことになったのだけれど、受け取る品は研究に関するものとしか聞いていなかった。
昨日ぶりの酒場。店の隣にシュベルトさんは住んでいる。
「悪いな、わざわざ来てもらって」
「いえ、全然です」
玄関先で渡された紙袋に入っていたのは、透明なガラスの箱だった。
これは直接的に材料になるというわけではなく、完成したものを入れて保管するものらしい。特殊な加工がされていて、開けるためには暗号が必要だとか。
「そういや、昨日は大丈夫だったか?」
「あっ」
できれば掘り返されたくはなかったけれど、私のことを心配してくれているのは分かっていた。
「ご迷惑おかけしてすみませんでした。もう大丈夫です」
そう伝えると、元気そうで安心したと笑ってくれた。
「それじゃあ、一歩大人になったお嬢さんにある秘密を教えてをあげよう」
「秘密?」
シュベルトさんはなぜか小声で教えてくれた。
「クラネスのことだ。お嬢さん、最近仲良いだろ」
仲が良いと言われれば、悪くはないんだろうけど。なぜこうも短期間のうちに同じようなことを言われるのか。
「お嬢さんは、エネルギー源の材料リストを見たことあるか?」
「リスト?初めて聞きました」
そんなものがあったんだ。でもなぜそれをシュベルトさんが知っているんだろう。
「臆病なあいつのことだ、まだ話してないんだろうな。暇な時にでもそのリストを探してみな」
これ以上話すのはクラネスに悪いからと言われ、この話は終わった。
いつも必要な材料は口頭で教えてもらってたし、リストを作っていることは聞いていなかった。
私がそれを見たところで何かあるのだろうか。
家に帰ると、運がいいのか悪いのかクラネスさんはいなかった。
申し訳ないと思いながらも、作業部屋に入り例のリストを探させてもらうことにした。
本棚とか引き出しとか、探す場所はいっぱいあるけれど、案外こういうものはテーブルに置いてあったりして。
テーブルの上に束ねられている資料や本を一つずつ見ていく。
すると不自然に本に挟まれている一枚の紙を見つけた。
あ、本当にあった。
そこには今まで集めたものと、これから集めるものの名前と持ち主が書かれてある。
上から順に見ていくと、目についたのは一番下。
ここだけ塗り潰されていた。必要ないから消したのだろうか。
……気になる。
光にかざしたら読めないかな。
私はテーブルの上のライトをつけ、再びリストを見た。
「有明灯。私の名前がある」
塗り潰されていた部分には名前と何かが書かれてあった。
「……」
静かだった部屋にドアの開く音が響いた。それを聞いて、持っていたリストを慌てて戻す。
こういう時、焦りは禁物だ。落ち着いて何事もなかったかのように振る舞えば大丈夫。そう言い聞かせながら部屋を出た。
「クラネスさん」
タイミングよく鉢合わせは避けられ、その人はリビングにいた。
「今からモモさんのところへ行ってきます」
今日の午後からはモモさんとの約束があった。
少し早いけれど、今はこの場から立ち去りたい。
「そうか、気をつけてな」
早足で玄関まで向かうと、再びクラネスさんに声をかけられた。
「四つ目の材料の持ち主と会う日が決まった。明日の午後、クロム・ランナイトという者を訪ねてほしい」
「もしかしてアポ取ってくれてたんですか?」
「そうだ。あと今回は一人で行ってもらえないか?俺がいない方が、あの人も話しやすいだろうから」
「分かりました」
私は最後まで平然を装っていた。