「これは、やばいな」

 灯の様子を見たシュベルトが水を持って来たが、手遅れだった。

 「クラネス。今日はお嬢さん連れて帰れ。リィンは俺が送る」

 「悪いな、任せる」

 クラネスは眠ってしまった灯を背中に乗せて帰った。


 外は日が落ちて、いつの間にか夜になっていた。店にいると、いつまでも明るい時間が続いている感覚になるため、時が経つのを忘れてしまう。
 灯はクラネスの背中でスヤスヤと眠っている。夜風に当たると目が覚めるだろうと思っていたが、そうでもないらしい。

 「いくらなんでも無防備すぎないか」

 その声が灯に届くことはなかった。


 無事家に着き、部屋へ入ると灯が目を覚ました。

 「クラネスさん……」

 その声はまだ寝ぼけている。またすぐに眠ってしまうだろう。
 そっとベッドへ運ぶと、蕩けそうな目でこちらを見ていた。

 「気分は悪くないか?」

 念の為、持ってきた水を飲ませる。やはりまだ酒は早かったかと、行かせたことを後悔していた。
 明日に響かなければいいが、と心配していると袖を引っ張られた。
 その顔は俯いていて表情は見えない。

 「クラネスさんは、優しいです。優しすぎます」

 零れる言葉をただ聴くことしかできない。

 「どうして怖いと言えと、言ったんですか。気にしてるなら言ってください。辛いなら、そう言ってください。……私だって、クラネスさんの、こと……」

 それ以上言葉が続くことはなく、灯は眠ってしまった。

 「……」

 ただ何もない、静かな時間が流れる。

 今のは寝言であってほしい。寝ていたとしても、どんな夢を見ていたらそんなことが言えるのか。

 ……。

 今のことは覚えていなくていい。

 服の袖を掴んでいた灯の手をそっと離し、クラネスは部屋を出た。