「そういえばクッキー、美味かったぞ」
片づけの手を止めずにクラネスさんは言った。
そうだった私、差し入れしてたんだ。
「よかったです。また作りますね」
なんでだろう。なんか、嬉しいかも。
こういうことは初めてじゃないのに、いつもと違う鼓動に違和感を感じた。
それを掻き消したくて、違う話題を振った。
「モモさんが言ってたんですけど、クラネスさんはロリが好きなんですか?」
「は?なぜそうなる」
「香水ですよ。人の姿のモモさんをあんな風に設定したのクラネスさんですよね?すごい恨んでましたよ」
「あー、あいつか」
もふもふが本来の姿であるモモさんは、作業がしやすいように人の姿になれる香水をクラネスさんに依頼した。本人はあの容姿が気に入らなかったみたいだけれど、私は可愛くて好きだ。
「別に俺の好みでも何でもない。ただ、モモは少々気が強いところがあってな。あいつの良いところではあるが、それを怖いと言う客もいたらしい。だから見た目を幼くして、愛嬌があって可愛らしく魅せようと思ったら、あんな感じに」
クラネスさんはお嬢様モードのモモさんを知らないんだ。
表のモモさんは、なめられないように強気な態度をとるって言ってたし、それが上手く調節できていなかったのかも。それにクラネスさんの話をするときはツンケンしてたもんね。
「気を許した人にはすぐに懐く猫みたいなやつだ。これからも仲良くしてやってくれ」
「もちろんです」
素のモモさんについては触れずに、私は頷いた。
そして私にはもう一つ気になっていたことがあった。
「それにしても、なぜ人の姿になる香水なんですか?」
作業の効率化を図るためとはいえ、人でなくても二足歩行で両手の使える動物ならなんでもよかったはず。
「ほとんどの者は人間を嫌っていないからな」
「嫌われ役だと言っているのに?」
人間のことをよく思っていない人がいたら、人の姿を見たくないのではないかと勝手に思っていた。
「嫌われていたとしても、それが人間を嫌う理由にはならない。なにせ元々……いや、なんでもない」
そう言いかけて話を止めた。
元々、なんだろ。
気になったけれど、それ以上は聞けなかった。
「さ、用は済んだから灯は部屋で休んでいろ」
「え!?あ、はい」
背中を押され、部屋の外に追い出されてしまった。
もしかして触れない方がいいことを聞いてしまったのだろうか。
私は多少の罪悪感を覚えつつ、言われた通り部屋に戻った。