父親の記憶はなく、母親も中学生の時に事故で亡くして一人になった私は、しばらく従姉妹の家に居た。しかし、いつまでも世話になり続けるわけにもいかない。高校進学と同時に一人暮らしを決意した私は、従姉妹の知り合いに頼んでアパートの一室を借りることになった。

母親との別れから立ち直るのに一年かかったけれど、いずれ自立することには変わりない。思い立ったが吉日という言葉に背中を押され、春休みが終わる一週間前に引っ越し作業を終わらせる予定だった。


確かに引っ越しはした。大きな荷物は運んでもらったし、寝床も確保した。私がやったことは軽めのダンボールの運搬と中身の確認。その後、必要な家具を配置。
そう、それだけしかしていない。


昔から体が弱いせいで、普段しないことをすると大抵熱が出ていた。
ここ数年風邪を引いていなかったのに一人になった途端気が抜けて、溜まった疲労が出てしまったのだろうか。


思えば従姉妹の家で世話になり始めた日からずっと気を張っていて、迷惑をかけないよう必死だった。

どんなに辛くても、悲しくても、人と距離を置けば気づかれない。笑って誤魔化せば何とかなることを知っている。ちゃんと自分の気持ちに蓋もできていた。

私の抱える辛さや悲しみを誰かに話しても、相手に迷惑をかけるだけだ。