「どうぞ」

 図書館に着き、警備員に鍵を見せると本当に通してもらえた。

 重い扉を開けると微かに光るライトが館内を照らす。

 広い……。

 真ん中の通路を挟むようにテーブルとイスが左右対称に並べられている。
 それを囲むのは隙間なく敷き詰められた本の棚。私を睨むように見下ろしている。
 怖い。本は好きだけれど、一人でいる真夜中の図書館は嫌いになりそうだ。

 奥へと続く本棚に沿って歩いていると階段を見つけた。
 手すりを持ってゆっくり上る。

 二階には、一階よりもスペースは狭いけれど、同じように本棚が並んでいた。

 今度は壁際に沿って歩く。その途中にドアを見つけた。
 下の隙間から月明かりが漏れている。
 鍵穴に渡された鍵を挿し込むと簡単に開いた。
 押したドアがギィィと音を立てる。

 入る前に顔だけを覗かせて確認する。
 中は薄暗くて、頼りになるのは差し込む月明かりのみ。
 窓が開いているのか風の音がして、そばでカーテンが小さく揺れている。


 何これ……。

 部屋に入り、見えた光景に言葉を失った。

 そこには大小様々な鏡がいくつも並んでいた。中には浮いているものもある。
 一つだけならまだしも、こんなに沢山の鏡があると不気味だ。
 息をするのを忘れてしまうほど、恐怖心が私を支配していた。


 『部屋に入ったら、手前から三つ目、右側にある大きな鏡の後ろに身を潜めなさい。誰かが来ても決して音を立ててはいけないよ』

 人一人が簡単に隠れてしまうサイズの鏡。私はその裏へ行った。
 自分の後ろにはもう壁しかないけれど、向かい側にある鏡たちがこちらを見ている。
 私は目を逸らした。


 鏡の部屋は人間の夢への入口だという。
 クラネスさんが、この町にとって最も重要な場所だと言っていた理由が分かった。ここは人間の夢と繋がるために必要な場所だから。