私は引き続き、クラネスさんの作業を見せてもらっていた。
今は懐中時計を作っているようで、クラッカーのような機能が備わっているものだという。
「なんですか?この機能は」
「依頼されたのが防犯グッズでな。これを身につけるのが女の子だから嫌がらずに持ってくれるものを作ってほしいと言われ、こうなった」
そう言って私の手に懐中時計を乗せてくれた。
目的は防犯のはずなのに、時計の数字部分はそれぞれ違うデザインで真ん中には木の実のイラストが描かれている。細かい部分までこだわっていて、こっちがメイン機能みたい。
「確かにこれだと嬉しいですね。可愛らしいデザインですし、首から下げられるので両手も使えます」
褒めたのが意外だったのか、クラネスさんは少し驚いていた。
「でもクラッカーって一度しか使えないんじゃ」
「まぁ、これはお守りみたいなものだな。依頼主の子は令嬢だから常に護衛がついている」
それ防犯グッズ持たせる意味ある?
身につけている人に危険が迫ったら作動する仕組みらしいけれど、護衛がいるならただの懐中時計……あ、そうか。だから時計にしたんだ。
クラネスさんは最初から防犯グッズにするつもりで作ったのではなく、クラッカーの方がおまけ。
「よし、こんなものでいいだろ」
完成した懐中時計を丁寧に箱に詰める。
一部の作業工程しか見ていないけれど、彼が皆から信頼されるのも分かった気がする。
依頼に対して真摯に向き合って、ひとつひとつ手作業で作り上げていく。その姿は繊細で、綺麗で、美しい。
なにより作っている本人が幸せそうだった。
この人になら、協力してもいいかな……。