「クラネスさんって普段どんなことをしてるんですか?」

 「気になるなら見てみるか?」

 帰り際にそんな会話をしていたため、家に着くと作業部屋に通された。
 そこは見るからに研究者の部屋です、というような雰囲気だった。
 テーブルの上には実験器具が並べられている。
 壁には沢山の貼り紙があり、そこに書かれている文字は読めないけれど、図があったり、手順が書かれてあったりするので実験に関するものだと思う。

 そして奥にはソファーがあり、ブランケットがかけられていた。

 「もしかして普段この部屋で寝てるんですか?」

 テーブルの上に広げられたものを片づけているクラネスさんに訊ねた。

 「いつもではないが、立て込んでいる時はここで寝ているな」

 「そんなに大変なんですか?」

 その質問を聞いた彼は、私に笑顔を向けてきた。

 「自分がやりたくてやっていることだから、そういう風に考えたことはない。ただ、中には一人ではできないこともあるから、そういう時は猫の手も借りたくなる」

 例の研究のことかと一瞬で理解した。
 研究に協力する気にはなっていないけれど、この家に居させてもらう以上、何もしないのは申し訳ない。

 「私にもできることがあるなら手伝いますよ。できることならね」

 「わざわざ二度言わなくても分かっている。その時になればこちらから声をかける」

 そう言って早速何かを作り始めた。


 作る……。

 久しぶりに私も作ってみようかな。
 私はあるものを作りにキッチンへ向かった。



 勝手に使っちゃうけど、いいよね。

 ありがたいことに、この家には色んな種類の茶葉があった。
 その中から一つを手に取る。そして、水、ミルク、砂糖も用意する。

 まずは鍋で水を沸かして茶葉を入れる。一〜二分ほど経ったら牛乳と砂糖を入れてかき混ぜる。完成したら茶こしを使ってカップに注ぐと出来上がり。

 キッチンに私の大好きな香りが広がる。

 うん、いい感じ。

 一口飲むだけで心が落ち着く。
 やっぱりこの味だなぁ。
 根っからの甘党の私は、母親に教えてもらった特製ミルクティーがお気に入り。
 従姉妹の家にいた間は作っていなかったけれど、一人暮らしを始めたら毎日作ろうと思っていた。



 ノックして返事が返ってくると、クラネスさんがドアを開けてくれた。

 「これ、よかったら」

 トレーに乗せたカップを見たクラネスさんは目を見開いた。

 「これは」

 「ミルクティーです。飲まれたことありますか?」

 「家にある茶葉は全て貰いもので、俺はあまり詳しくなくてな」

 再び部屋へと入り、サイドテーブルにカップを並べた。

 「お口に合うか分かりませんが……」

 「いただこう」

 クラネスさんはカップを手に取った。

 今まで自分用に作ることはあっても、誰かに飲んでもらったことはない。これが初めてだ。

 「……」

 なんだか落ち着かない。こんなに緊張するんだ。
 カップから口が離れたのを確認すると、私は視線を下に向けた。
 甘いもの苦手だったらどうしよう。急に不安になってきた。

 「うん、美味いな」

 その声に顔を上げる。
 私の作ったミルクティーを飲んでクラネスさんが笑ってくれた。

 あ、これ結構嬉しいかも。
 顔には出していない、出ていないはずだ。
 だってあからさまに喜んだら、からかわれるかもしれない。

 「よかったです」

 どれだけ我慢しても笑みは零れてしまうもので、私は軽く唇を噛んだ。
 自分の好きなものを褒められるって、こんなに嬉しいんだ。



 「そういえば、前に私の好きなもの知ってるって言ってましたよね?」

 慣れない感情に戸惑って別の話題をふった。

 「あぁ、このミルクティーだろ。ちなみに誕生日は来月の二十二日、学校は〇小学校に△中学校、春からは□高校に通う」

 聞いてないことまでペラペラと……。信じたくなかったけど、本当に知ってるんだ。

 「……怖い」

 「お前が聞いたんだろ」