歩き続けること数分、辺りは緑に包まれていた。山の中にある道は整備されていて、普通の道とあまり変わらない。
 そしてあるものに気づいた。
 それは一際目立っている一本の桜の木。
 この世界にも桜ってあるんだ。しかもたった一本。誰かが植えたんだろうけど、一体何のために……。
 一面緑だからかなり浮いているけれど、自分の知っているものがあるというのはなんだか安心する。


 「ちなみにあいつは俺と同い年だ。だから緊張する必要はない」

 そう言われても私はクラネスさんの年齢を知らない。

 「お幾つなんですか?」

 私よりも年上なのは確かだ。見た感じ二十代前半くらいだろうと思っていた。
 でもそう考えるとかなり若い町長さんだよね。

 「忘れた」

 ……。

 「それはつまり、忘れるほど長い年が経って」

 「よし着いた」

 聞こえていないふりをするように彼は声を上げた。
 話したくないなら無理に聞かないけど。
 そう思いながら視線を向けると、町にある建物とは異なる造りの家があった。

 「これは……」

 その家に思わず息を呑んだ。
 目の前にあるのは、自分の住んでいた町でも見たことがある昔ながらの木造住宅。


 中世ヨーロッパの景色が広がっていたはずのこの町に、なぜ日本の平屋が……。
 まぁ、ここは自分のいた世界とは違うから町の在り方も違って当然か。


 「いらっしゃい」

 家から着物を着た男性が出てきた。
 こういう人、日本にもいるよ絶対。

 「あなたが例の……」

 彼は私の方を向いて一礼した。それを見た私も同じように一礼する。
 この人も私のことを知ってるのだろうか。


 「今日もそんな格好をしているのか、エイト」

 「あぁ、これが一番落ち着くんだ」

 見た目は若そうだけれど、落ち着いた佇まいで貫録があり、そのオーラに圧倒されてしまう。

 「どうぞ中へ」

 立ち話もなんだからと、縁側へ案内された。