人の波が去ってクラネスさんの周りが落ち着いた頃、私は疑問を口にした。

 「クラネスさんって有名人なんですか?」

 ほとんどの人は彼のことを知っているようで、挨拶をする人やお礼を告げる人、商売の話をする人もいた。

 「俺は研究者であり発明家なんだ。ある時、町の者に依頼されて品を作ったら好評で、それが広まって今に至る。見直したか?」

 確かに町で出会った時の第一印象よりはマシになった。
 彼は誰に対しても丁寧な対応をしていたし、話した人全員の名前を覚えていた。
 小さな町だけれど、クラネスさんの存在は大きいのかもしれない。彼はこの町から信頼されているようだったから。

 「そうですね。私から見たら、ただの誘拐犯ですけど」

  こんな言い方をしているけれど、いい人なのは何となく分かっていた。
 私がただの研究材料なら、こんな風に外には連れ出してくれないだろうし、必要なものをさっさと奪ってそこら辺に捨てればいいだけだ。でもそうしないのは彼の優しさなのかもしれない。

 「灯は素直じゃないな。見直したのならそう言えばいいのに」

 素直になれないのは、この人がこういう人だからだ。

 「誘拐犯だと言いふらせばよかったですか?」

 いい人ではあるんだろうけど、一言多いんだよな。