階段を下りると、そこにもいくつか部屋があった。そのうちの一つはドアが開いている。
 広い洋室、リビングかな。
 太陽の温かい日差しと木材の匂いと美味しそうな香りが……え、人がいる?

 中にキッチンがあるのか料理の音がする。
 入る勇気はなく入口の前で立ちすくんでいると、奥から知らない男性が顔を出した。

 「お、起きたのか。体調は大丈夫か?」

 私を見ても全然驚いていない。ここにいることが当たり前のように声をかけてきた。この人は私のことを知っているのだろうか。
 今、部屋にはこの人以外誰もいない。商店街で会った人より話が通じそうだと思い、私は部屋に入った。

 「あの、ここはどこなんですか?」

 男性の背中に問いかけた。
 すると手を止めてこちらを向いた彼は目を丸くしていた。

 「お前、何も言わずに連れて来たのか?」

 その言葉が投げかけられたのは私のいる方だ。しかし彼はそれよりも遠くに言っているようだった。