「で、結局どこにすんだよ?」
浜松に促されるまま、こうして大学近くのファミレスまでやってきたのは良いが、何分入学式から日が浅い。
一年生は俺と浜松を合わせて5人だが、やはりまだどこか、ぎこちなさがある。
無論、それは浜松を除いての話だ。
彼女は俺たちと、まるで前世からのマブダチかの勢いで、接してくる。
とても数時間前に出会ったとは思えない距離感だ。
そのおかげかは定かではないが、ギリギリ話し合いが成立する空気感はありそうだ。
そこだけは彼女に感謝しなければならないだろう。
いや……、そもそも彼女がいなければ、この謎の集会自体開催されていない。
まぁ一度決まってしまった以上、四の五の言うことは許されないのが、社会の常だ。
俺たちは目的遂行に向けて、粛々と話し合いを進めなければならない。
たかが旅行、されど旅行だが、青春なんちゃら切符とやらで一人で無計画に旅するのとでは、流石にワケが違う。
一応、公式に認められた任意団体ということもあり、大学側からの補助も少しだけ下りるらしい(副会長談)。
ある種の公金のようなものを使うわけだから、多少の計画性も求められる。
そういったイベントを避けるため、このサークルを選んだ部分も多少あるので、複雑な想いもある。
せめて就職活動の折りには、このイベントで得た成長の果実とやらを数倍に脚色して面接のネタに出来たら、と切に願うばかりである。
「んー、どうしよっか?」
彼女はドリンクバーのグラスに入った氷を、ストローで転がしながら答える。
その様子からは、やる気など微塵も感じられない。
「どうしよっかって……、言い出しっぺだろうが」
「うーん、そうなんだけどさー。GWでどこも混んでるじゃん? しかも時間も結構ギリギリだし、予約取れるのかなー」
まぁ勢いで言ったであろうことは、端から分かっていたが……。
開き直りとも言えるその態度は、むしろ清々しくもある。
彼女はしばらく考えた後、突発的に大声をあげる。
「あぁーーーーーーーーっ!!」
「馬鹿っ!! ここファミレスだぞっ!! 他の客のこと考えろっ!!」
俺の注意をものともせず、彼女は続ける。
「アタシ、忘れてた! 実はさ。ウチの親戚に温泉旅館のオーナーさんが居るんだよね。その人に相談してみようよ! ホラ! 裏口入学的な?」
「温泉、か……」
大学生の新歓合宿と考えると、爺臭い気はするが悪くはない。
むしろ、俺たちらしいと言ってもいい。
それに……。
「あっ! 羽島っち、今エロいこと考えたでしょ?」
「は、はぁーーーー!? アホか!!」
「図星だぁー! あーやだやだ。男の子って皆そんな感じなの? 徳《とく》ちゃん」
「あはは……、それはどうかな。ねぇ羽島くん」
「いや、俺に聞くなよ……。お前も徳山に無茶振りすんな。困ってんだろ。徳山。コイツになんかされたら言えよ?」
浜松は俺を変態扱いした挙げ句、同級生の一人、徳山 燕仁まで巻き込む。
色白で童顔の中性的なビジュアル。
ともすれば虚弱体質にも見られるため、俺も無意識的に保護者的な目線で彼のことを見てしまう時がある。
徳山自身も、そのことをコンプレックスに思っているフシがあるので、そこは注意が必要だ。
「あ、うん……。僕の方は大丈夫だよ」
ありがた迷惑とばかりに、徳山は全力の苦笑いを浮かべる。
「お、おう。何か、悪い……」
しまった。やはりいらん世話だったか。
浜松は後悔に打ちひしがれる俺に、恨めしい視線を送ってくる。
「何で徳ちゃんにだけ優しいのさ? もっと優しくしなきゃイケないレディが目の前にいない?」
「あぁ、そうだったな。尾道、いつもありがとな」
「うん……。羽島くん、こちらこそ……」
俺はもう一人の同級生、黒髪ロングのTHE・文学少女、尾道 來茉に向けて、礼を言う。
「確かに、來茉ちゃんもだけど!! もう一人、近くにいるでしょ!!」
「もう一人? おいっ! まさか、コイツを女扱いしてるのか!? 今コンプライアンス的に厳しいんだから、不用意な発言は控えろ!」
「ひど〜〜〜い、望ちゃんたら! ソレどういう意味っ!?」
最後の一年生、岩国 山彦が俺に抱きつきながら、必死に抗議してくる。
しかし、不思議とそれほど嫌そうに見えない。
もはや彼にとっては予定調和なのだろう。
勘違いされやすいが、彼は別にLGBTに該当するわけではない。
でも、近くに一人くらい居ただろ?
別に同性愛者とかではないけど、仕草とか言動とか妙にオネェっぽいヤツ。
「だーかーらー、タカ君でもなくて、アーターシッ!」
「アーター氏? 知らない人ですね」
浜松はムキーと言いながら、地団駄を踏む。
少しだけ彼女のペースを崩せたと思い、気持ちがスカッとする。
「ま、まぁまぁ。その辺で……。じゃあ行き先はその、温泉ってことでいいのかな?」
そんな彼女を見ながら、徳山は慌てて軌道修正をはかる。
「そ、そうだねっ! うん。喜べ、羽島っち! そこは都心の健康ランドとかじゃなくて、山奥のTHE・温泉街。たまにサルも入りに来るって噂もあるくらい。やったね! 混浴だよ!」
「生憎、サルに欲情するほど飢えてねーよ……」
「よしよし! そうと決まれば早速買いに行こう!」
「はぁ? 何をだよ?」
「決まってんじゃん! 水着!」
「泳ぐ気かよ……。お前はもう少し公衆のマナーというものをだな……」
「じゃあ、羽島っち。お会計ヨロシク〜」
「テメェ、マジでふざけんな!」
斯くして、彼女曰く陰キャの巣窟こと我が映研は、創立以来初めての新歓合宿の開催が決定した。
浜松に促されるまま、こうして大学近くのファミレスまでやってきたのは良いが、何分入学式から日が浅い。
一年生は俺と浜松を合わせて5人だが、やはりまだどこか、ぎこちなさがある。
無論、それは浜松を除いての話だ。
彼女は俺たちと、まるで前世からのマブダチかの勢いで、接してくる。
とても数時間前に出会ったとは思えない距離感だ。
そのおかげかは定かではないが、ギリギリ話し合いが成立する空気感はありそうだ。
そこだけは彼女に感謝しなければならないだろう。
いや……、そもそも彼女がいなければ、この謎の集会自体開催されていない。
まぁ一度決まってしまった以上、四の五の言うことは許されないのが、社会の常だ。
俺たちは目的遂行に向けて、粛々と話し合いを進めなければならない。
たかが旅行、されど旅行だが、青春なんちゃら切符とやらで一人で無計画に旅するのとでは、流石にワケが違う。
一応、公式に認められた任意団体ということもあり、大学側からの補助も少しだけ下りるらしい(副会長談)。
ある種の公金のようなものを使うわけだから、多少の計画性も求められる。
そういったイベントを避けるため、このサークルを選んだ部分も多少あるので、複雑な想いもある。
せめて就職活動の折りには、このイベントで得た成長の果実とやらを数倍に脚色して面接のネタに出来たら、と切に願うばかりである。
「んー、どうしよっか?」
彼女はドリンクバーのグラスに入った氷を、ストローで転がしながら答える。
その様子からは、やる気など微塵も感じられない。
「どうしよっかって……、言い出しっぺだろうが」
「うーん、そうなんだけどさー。GWでどこも混んでるじゃん? しかも時間も結構ギリギリだし、予約取れるのかなー」
まぁ勢いで言ったであろうことは、端から分かっていたが……。
開き直りとも言えるその態度は、むしろ清々しくもある。
彼女はしばらく考えた後、突発的に大声をあげる。
「あぁーーーーーーーーっ!!」
「馬鹿っ!! ここファミレスだぞっ!! 他の客のこと考えろっ!!」
俺の注意をものともせず、彼女は続ける。
「アタシ、忘れてた! 実はさ。ウチの親戚に温泉旅館のオーナーさんが居るんだよね。その人に相談してみようよ! ホラ! 裏口入学的な?」
「温泉、か……」
大学生の新歓合宿と考えると、爺臭い気はするが悪くはない。
むしろ、俺たちらしいと言ってもいい。
それに……。
「あっ! 羽島っち、今エロいこと考えたでしょ?」
「は、はぁーーーー!? アホか!!」
「図星だぁー! あーやだやだ。男の子って皆そんな感じなの? 徳《とく》ちゃん」
「あはは……、それはどうかな。ねぇ羽島くん」
「いや、俺に聞くなよ……。お前も徳山に無茶振りすんな。困ってんだろ。徳山。コイツになんかされたら言えよ?」
浜松は俺を変態扱いした挙げ句、同級生の一人、徳山 燕仁まで巻き込む。
色白で童顔の中性的なビジュアル。
ともすれば虚弱体質にも見られるため、俺も無意識的に保護者的な目線で彼のことを見てしまう時がある。
徳山自身も、そのことをコンプレックスに思っているフシがあるので、そこは注意が必要だ。
「あ、うん……。僕の方は大丈夫だよ」
ありがた迷惑とばかりに、徳山は全力の苦笑いを浮かべる。
「お、おう。何か、悪い……」
しまった。やはりいらん世話だったか。
浜松は後悔に打ちひしがれる俺に、恨めしい視線を送ってくる。
「何で徳ちゃんにだけ優しいのさ? もっと優しくしなきゃイケないレディが目の前にいない?」
「あぁ、そうだったな。尾道、いつもありがとな」
「うん……。羽島くん、こちらこそ……」
俺はもう一人の同級生、黒髪ロングのTHE・文学少女、尾道 來茉に向けて、礼を言う。
「確かに、來茉ちゃんもだけど!! もう一人、近くにいるでしょ!!」
「もう一人? おいっ! まさか、コイツを女扱いしてるのか!? 今コンプライアンス的に厳しいんだから、不用意な発言は控えろ!」
「ひど〜〜〜い、望ちゃんたら! ソレどういう意味っ!?」
最後の一年生、岩国 山彦が俺に抱きつきながら、必死に抗議してくる。
しかし、不思議とそれほど嫌そうに見えない。
もはや彼にとっては予定調和なのだろう。
勘違いされやすいが、彼は別にLGBTに該当するわけではない。
でも、近くに一人くらい居ただろ?
別に同性愛者とかではないけど、仕草とか言動とか妙にオネェっぽいヤツ。
「だーかーらー、タカ君でもなくて、アーターシッ!」
「アーター氏? 知らない人ですね」
浜松はムキーと言いながら、地団駄を踏む。
少しだけ彼女のペースを崩せたと思い、気持ちがスカッとする。
「ま、まぁまぁ。その辺で……。じゃあ行き先はその、温泉ってことでいいのかな?」
そんな彼女を見ながら、徳山は慌てて軌道修正をはかる。
「そ、そうだねっ! うん。喜べ、羽島っち! そこは都心の健康ランドとかじゃなくて、山奥のTHE・温泉街。たまにサルも入りに来るって噂もあるくらい。やったね! 混浴だよ!」
「生憎、サルに欲情するほど飢えてねーよ……」
「よしよし! そうと決まれば早速買いに行こう!」
「はぁ? 何をだよ?」
「決まってんじゃん! 水着!」
「泳ぐ気かよ……。お前はもう少し公衆のマナーというものをだな……」
「じゃあ、羽島っち。お会計ヨロシク〜」
「テメェ、マジでふざけんな!」
斯くして、彼女曰く陰キャの巣窟こと我が映研は、創立以来初めての新歓合宿の開催が決定した。