「鷹臣さんって……」
ますます頭が追いついていかない。
三島が勝手に呼ぶ分には、まだ分かる。
困惑する俺を見て、何かを察した三島は豊橋さんに注意喚起する。
「光璃ちゃん、それじゃ羽島くんが混乱しちゃうよ」
「そ、そうでしたね。すみません……」
三島は、勢い良く謝罪する豊橋さんを困ったような笑みで見つめる。
そして、俺に向き直りゆっくりと話し出す。
その顔には、いつも俺には見えていた浅薄さのようなものはなかった。
「羽島くん。今日は米原くんに頼んで、キミを呼び出すために企画してもらったんだ。普通に呼び出しても、警戒して来てくれないと思ったから」
「……じゃあ何でヨリによって、合コンなんだよ」
「そこは米原くんだからかな! それにさ、羽島くん。キミも少なからず、米原くんに恩義っていうか、後ろめたさっていうかさ。そんなもの感じてるでしょ? だから、米原くん経由だったら断らないかなって思って。品川さんにも協力してもらってさ」
「ゴメンね。羽島くん」
三島に促され、品川さんが眉をハの字にして謝る。
やはりモテ期は幻だったか。
それにしても三島はどこまで俺を見透かせば、気が済むんだ?
余裕たっぷりの笑みで応えるヤツの顔を見ていると、またしても謎の敗北感に苛まれてしまう。
「……んで、こんな手の込んだ芝居打ってまで、何が聞きたかったんだよ?」
「その前にさ! 羽島くんの方こそ聞きたいことあるんじゃない?」
イチイチお見通しなのが腹が立つ。
俺はコイツの作った台本上の文字でしかないのだろう。
「まずは光璃ちゃんと俺の関係、だよね?」
「……分かってんなら、早く言えよ」
「安心して。キミが心配してるような関係じゃないから。友達の妹ってだけだよ」
「そうだったのかよ……。あん時は惚けやがって」
「別に惚けてなんかいないよ。俺も久々に見たから、顔が分からなくてさ。もしかして、とは思ったんだけど。後で、友達に確認したら、やっぱりそうっだったみたいで……。凄くキレイになってたから、ちょっと感動しちゃったよ!」
三島の話を聞くと、その横に座る豊橋さんは顔を赤らめながら、俯いてしまった。
ナチュラルに言って退ける辺り、三島とはやはり人種が違う。
「品川さんもタダの友達だから、安心して。行き掛かり上、彼女が居た方がスムーズかなって思ってさ。まぁ言っちゃえばエキストラかな」
すると、品川さんは意味深な笑みを浮かべ、ウィンクをしてくる。
先の幻が、再び薄っすらとその姿を現した。
だから、豊橋さん。
そんな顔で睨むのはやめてくれ。
「後は……、そうだな。他に何かある?」
「いや、他もクソもさっきからお前が勝手に喋ってるだけだろ」
「はは。そうだったね。じゃあキミの方からはこんなモンかな。じゃあそろそろ本題に」
三島から笑みが消えた。
「羽島くん。三島記念病院って、覚えてる?」
俺の人生で、恐らく二度と聞くことのない固有名詞だと思っていた。
だが、こうして三島の口から聞かされることで実感する。
俺の中で、まだ何も終わってなどいなかったのだと。
「ごめん。意地悪で言ってるわけじゃないんだ。こうして不思議な縁で出会ったからには言っておきたくてさ」
「……じゃあお前は、俺からどんな言葉を引き出したいんだ?」
「そうだね。ちゃんと言うよ」
三島はフゥーと息を吐き、意を決するように言う。
「俺たちが聞きたいのはね。浜松 朔良さんのことだよ……」
「っ!?」
「正直、俺もある程度のことは聞いてるんだ。でも、詳しい事情までは知らないからね。それにホラ……、彼女はキミの口から聞きたがってるみたいだしね」
曇りのない豊橋さんの視線はまっすぐと、俺の弱い心を射抜くように見据えている。
「帰る……」
「待って下さい! 羽島さん!」
俺が席を立とうとすると、すかさず豊橋さんが引き止めてくる。
その気迫に自然と足が止まってしまう。
「羽島さん。羽島さんは世の中のことなんて何にも知らなかった私に、色々なことを教えてくれました。アレは全部羽島さんの経験談、いえ……、羽島さん自身の後悔が元になってるんですよね?」
「……だったら何だってんだよ」
「羽島さんは言いました。米原さんだけを騙して、成長した気になってるならソレは驕り、だって。私、思うんです。羽島さんの後悔の原因をはっきりさせないと、本当の意味で成長出来ないって」
「なんだ? 一丁前に他人の世話まで焼こうとしてんのか? だとしたら、ソレこそ驕りだな」
俺の言葉を遮るように、彼女は続ける。
「マニュアル作りの目的、覚えてますか?」
「っ!?」
「教えて、くれませんか? 彼女のこと。私の成長のためにも」
まさにしてやられた。
言質を取られてしまったのは、俺の落ち度だ。
それに……、彼女にこんなことを言われてしまっては、もはや断る理由など探す方が難しい。
全ては自分が撒いた種だ。
俺は全てを話すことを決めた。
ますます頭が追いついていかない。
三島が勝手に呼ぶ分には、まだ分かる。
困惑する俺を見て、何かを察した三島は豊橋さんに注意喚起する。
「光璃ちゃん、それじゃ羽島くんが混乱しちゃうよ」
「そ、そうでしたね。すみません……」
三島は、勢い良く謝罪する豊橋さんを困ったような笑みで見つめる。
そして、俺に向き直りゆっくりと話し出す。
その顔には、いつも俺には見えていた浅薄さのようなものはなかった。
「羽島くん。今日は米原くんに頼んで、キミを呼び出すために企画してもらったんだ。普通に呼び出しても、警戒して来てくれないと思ったから」
「……じゃあ何でヨリによって、合コンなんだよ」
「そこは米原くんだからかな! それにさ、羽島くん。キミも少なからず、米原くんに恩義っていうか、後ろめたさっていうかさ。そんなもの感じてるでしょ? だから、米原くん経由だったら断らないかなって思って。品川さんにも協力してもらってさ」
「ゴメンね。羽島くん」
三島に促され、品川さんが眉をハの字にして謝る。
やはりモテ期は幻だったか。
それにしても三島はどこまで俺を見透かせば、気が済むんだ?
余裕たっぷりの笑みで応えるヤツの顔を見ていると、またしても謎の敗北感に苛まれてしまう。
「……んで、こんな手の込んだ芝居打ってまで、何が聞きたかったんだよ?」
「その前にさ! 羽島くんの方こそ聞きたいことあるんじゃない?」
イチイチお見通しなのが腹が立つ。
俺はコイツの作った台本上の文字でしかないのだろう。
「まずは光璃ちゃんと俺の関係、だよね?」
「……分かってんなら、早く言えよ」
「安心して。キミが心配してるような関係じゃないから。友達の妹ってだけだよ」
「そうだったのかよ……。あん時は惚けやがって」
「別に惚けてなんかいないよ。俺も久々に見たから、顔が分からなくてさ。もしかして、とは思ったんだけど。後で、友達に確認したら、やっぱりそうっだったみたいで……。凄くキレイになってたから、ちょっと感動しちゃったよ!」
三島の話を聞くと、その横に座る豊橋さんは顔を赤らめながら、俯いてしまった。
ナチュラルに言って退ける辺り、三島とはやはり人種が違う。
「品川さんもタダの友達だから、安心して。行き掛かり上、彼女が居た方がスムーズかなって思ってさ。まぁ言っちゃえばエキストラかな」
すると、品川さんは意味深な笑みを浮かべ、ウィンクをしてくる。
先の幻が、再び薄っすらとその姿を現した。
だから、豊橋さん。
そんな顔で睨むのはやめてくれ。
「後は……、そうだな。他に何かある?」
「いや、他もクソもさっきからお前が勝手に喋ってるだけだろ」
「はは。そうだったね。じゃあキミの方からはこんなモンかな。じゃあそろそろ本題に」
三島から笑みが消えた。
「羽島くん。三島記念病院って、覚えてる?」
俺の人生で、恐らく二度と聞くことのない固有名詞だと思っていた。
だが、こうして三島の口から聞かされることで実感する。
俺の中で、まだ何も終わってなどいなかったのだと。
「ごめん。意地悪で言ってるわけじゃないんだ。こうして不思議な縁で出会ったからには言っておきたくてさ」
「……じゃあお前は、俺からどんな言葉を引き出したいんだ?」
「そうだね。ちゃんと言うよ」
三島はフゥーと息を吐き、意を決するように言う。
「俺たちが聞きたいのはね。浜松 朔良さんのことだよ……」
「っ!?」
「正直、俺もある程度のことは聞いてるんだ。でも、詳しい事情までは知らないからね。それにホラ……、彼女はキミの口から聞きたがってるみたいだしね」
曇りのない豊橋さんの視線はまっすぐと、俺の弱い心を射抜くように見据えている。
「帰る……」
「待って下さい! 羽島さん!」
俺が席を立とうとすると、すかさず豊橋さんが引き止めてくる。
その気迫に自然と足が止まってしまう。
「羽島さん。羽島さんは世の中のことなんて何にも知らなかった私に、色々なことを教えてくれました。アレは全部羽島さんの経験談、いえ……、羽島さん自身の後悔が元になってるんですよね?」
「……だったら何だってんだよ」
「羽島さんは言いました。米原さんだけを騙して、成長した気になってるならソレは驕り、だって。私、思うんです。羽島さんの後悔の原因をはっきりさせないと、本当の意味で成長出来ないって」
「なんだ? 一丁前に他人の世話まで焼こうとしてんのか? だとしたら、ソレこそ驕りだな」
俺の言葉を遮るように、彼女は続ける。
「マニュアル作りの目的、覚えてますか?」
「っ!?」
「教えて、くれませんか? 彼女のこと。私の成長のためにも」
まさにしてやられた。
言質を取られてしまったのは、俺の落ち度だ。
それに……、彼女にこんなことを言われてしまっては、もはや断る理由など探す方が難しい。
全ては自分が撒いた種だ。
俺は全てを話すことを決めた。