「はぁぁぁ!? 今度は三島をハメるってか!! 最近攻めてるねぇ、()()()()

 三島と邂逅した翌日。
 俺は米原に次のターゲットとして、三島を予定していることを話してみた。
 今回、傍観者であるとは言え、俺はこれまで彼女の人生を歪めてきた張本人だ。
 彼女から言い出したこととは言え、俺が何もしないワケにもいかない。
 彼女へのヒントとして、三島に関する最低限の情報を入手しておく必要がある。
 とは言っても、所詮は俺だ。
 この男以外に伝手などないし、使えるものは猫の手でも米原の顔でも何でも使おうと思い、こうして協力を要請している。
 例え、この男が放つ無神経な一言によって、心が揺さぶられようとも……。

「……その呼び方はやめろ」
「わ、悪いっ! 今さらだけど、良いアダ名だなって思ってさ! 何か、こうキャッチーでフランクな感じするだろ? な? な?」

 『しまった!』とばかりに慌てて弁明に走る米原だが、別に悪気がないことくらいは分かる。
 むしろ、未だに()()()()()で精神が乱れてしまう俺の方が、迷惑この上ない人間だろう。

「別にしねぇだろ……。それでだな、三島について色々と教えて欲しい」
「情報つってもねぇ……、具体的に何が聞きたいんだよ?」

 俺は豊橋さんが三島を攻略する上で、必要に成り得る情報を要求した。

「うーん、アイツの好きな服装と髪型にメイクねぇ……」

「まぁ、髪型は時間がないにしても、服装とかは何とかなるだろ? だからさ……」

「いや、まぁそれは分かるんだけどさ……。ホントに()()だけでいいのか?」

「……どういう意味だ?」

「だってさ、そもそも豊橋さんを誘ってきたのはアイツだぜ? まぁ豊橋さんがアイツの好みかどうかは知らんけどさ。少なくとも悪いようには思ってねぇだろ。だから別に、見た目云々は今さらそこまで気にすることじゃねぇんじゃねぇの? 第一、それだけ聞いたところで豊橋さんの成長もクソもねぇだろ」

 分かっている……、そんなことくらい。
 もっと聞くべきことなど、山ほどある。

「お前さ……、ホントはあんまり知りたくねぇんじゃねぇの? 知らんけど」

 決定的な一言を言われてしまった。
 そして、米原はなおも俺の図星をついてくる。

「まぁ別にデート商法なんだから、『その程度で構わん』って言われたらそれまでなんだけどさ。お前が知りたい情報で、三島の何が分かるってんだよ」

「そりゃあ……、アイツのタイプとかだろ」

「タイプねぇ……。そもそもさ、ソレ知ったところで、ぶっちゃけしょうがなくね? 豊橋さんは豊橋さんだろ? だから、こうなんつぅか、もっとこう……、アイツの人間性とかバックグラウンド的な?」

 米原の言う通り、所詮はデート商法だ。
 相手が求めているのは、その場限りの()()()()()()なのだから。
 だから、肝心なのはそんな表層的な話じゃない。
 俺は知るべきだ。
 俺が三島を過剰に恐れ、豊橋さんを近づけさせたくない理由を。

「俺さ。たぶんこのままだと言い過ぎちまう……。だからもうお前から聞かれても何も言わねぇよ。でも、これだけは言っておくぞ」

 米原はひと呼吸を置き、再びその口を開く。

「お前はもう逃げられないところまで来てるよ。豊橋さんからも。()()からも」

 それだけ言うと、米原はいつもの喫煙ブースへ向かっていった。