「えぇっっ!? 今度は羽島さんの後輩さんですか!?」
「そうだ。今回は米原とは全く違うタイプだから、ちょっと用法・用量が違ってくるぞ」
「よ、要するに羽島さんと同じタイプってことですか??」
「……何か含みがありそうだが、概ね間違ってはいないな」

 善は急げとばかりに、俺は安城と別れた後、豊橋さんに電話を掛けた。
 あの遊園地での一件の後、彼女とは特に連絡を取り合うようなことはなかったが、電話口の彼女はいつもの調子だったので、不思議な安堵感が生まれる。

「で、でも……。正直気が進みません。米原さんのあの表情を見た後だと……」

 やはりそうか。
 彼女の中の罪悪感はそう簡単に拭えるものではない、か。
 しかし、こちらとしてもそう易々と引き下がるわけにはいかない。

「なぁ……、アンタまだ勘違いしてんのか?」
「えっと……、ソレはどういう意味でしょう、か?」
「そもそもデート商法における目的とはなんだ? はい、豊橋さん」
「えっと……、あたかも相手に対して気がある素振りを見せて、高価な不動産や宝石を買わせる、ですか?」

「正解だ。それこそがこちらが得る()()だ。そこで思い出して欲しい。米原は最後になんて言ったか?」

「えーっと……、『楽しい()をありがとう』と。あ……」

「そうだ! 米原は確かに豊橋さんとの時間は楽しかったと言った! これが向こうが得た対価だ。良いか、豊橋さん。世の中全ての商売は、価値と価値の等価交換で成り立っている。嘘とは言え、米原に楽しい時間を提供出来たんだ。そりゃもう、立派な経済活動だと思わないか?」

「は、はぁ……」

「だから、そこまで罪悪感に苛まれる必要はない。第一、ヤツは何も買っていない。むしろ、こちらが何かしらの請求をしてもいいくらいだ」

「……羽島さん。デート商法を否定したいのか肯定したいのか、どっちなんですか」

「っ!?」

 彼女の正論が重くのしかかる。
 だがここで負けるわけにはいかない。

「と、兎に角だなっ! 米原の一件だけで、世の中の全てを知った気になってるっつぅなら、それは驕り以外の何物でもない。アンタはもっと社会を知るべきだ!」

 俺の詭弁とも言える物言いに彼女は押黙る。
 そして、フゥと溜息を吐き言葉を溢す。

「……分かりました」
「え!? お、おう。分かってくれたか?」
「はい。どの道、今の私は羽島さんと運命共同体みたいなところがありますからね……。羽島さん。捕まる時は一緒です」
「おいっ! 俺は捕まる気は()ぇからな!」
「ふふっ。冗談ですよ。さ。具体的にどうします?」

 電話口から、彼女の微笑んだ声が耳奥を擽る。
 しかし、俺に冗談を言うようになったと考えると、少しは打ち解けたと見ていいのか?
 ……いや、そんな目的はない。
 これは飽くまで俺のエゴであり、彼女にとって成長の舞台だ。
 あまり深入りしたところで、お互いにメリットはない、はずだ。

「あ、あぁ……。具体的には、だな」

 所詮は米原の表面的な態度をネタに、説得をしたに過ぎない。
 それはきっと彼女も気付いている。
 それでも彼女は、俺の提案に応じてくれた。
 応じてくれたからには、俺は()()()()()()()()を作り上げる義務がある。
 全く。否定したいのか、肯定したいのかどっちなんだろうな。