散策と休憩を繰り返し、すっかり太陽が頭のてっぺんへ昇った頃に、やっと目的地の渡瀬神社へ辿り着いた。
山を半日かけて登った中腹に位置する渡瀬神社は、周りを険しい岩場や深い木々に囲まれているため、参拝客はそう多くない。それに大層名のある神社というわけでもない。境内は小ぢんまりとしているし、建物も老朽化してきている。
けれど昔から「願い事の叶う神社」として知る人ぞ知る名所で、日照りの続く村などではここにお参りすると、二、三日後には必ず雨が降るとの逸話もあった。
それに九郎の言う通り、景観が素敵なのだ。
鳥居をくぐり、背の高い杉の木の間を縫うように続く、長い石段を登って行くと、青々とした大木に囲まれた拝殿が現れる。古びていてもその佇まいはどこか威厳があり、なんとも神聖で、毎回背筋が伸びる思いだ。
私は最初の鳥居の前に立ち、深々とお辞儀をする。九郎もそれに倣って頭を下げ、一緒に鳥居をくぐった。
その先の石段は長いけれど傾斜が緩やかなため、少し彼と言葉を交わす余裕があった。
「…あの、ここまでドウモ。
お参りが済んだら後は帰るだけだから、もう大丈夫よ。」
目的地には無事着いたのだから。
しかし九郎はにこやかな顔を崩すことなく言い返す。
「お構いなく。フヨさんをきちんと“屋敷まで”送り届けることが、僕の役目です。」
「………はっ?」
「帰る頃にはすっかり夜でしょう?
夜の山を一人で歩くのは危険ですからね。
僕が付いててあげませんと。」
さも当たり前のように宣言されてしまい、私は反論の言葉が思いつかず押し黙ってしまう。
本当にこの男は何が目的なんだろう…。
…そこでふと、なぜ彼が“私が屋敷に奉公している”のを知っているのか、疑問が湧いた。
「…あの、もしかして九郎、前にどこかで会ってる?私と…。」
こんなに執着する理由といえばそれしか思いつかない。自惚れみたいな話だけど、以前私を一目見て気に入ってしまったとか…。