京がつばきの手を引き、体を支えるように立たせると「行こう」と言った。
まだ夢心地のつばきはこれが夢ではないかどうか京に何度も訊いた。
そのたびに京は目を細めて笑い夢ではないと言ってくれた。
京の隣にいるのは自分であるはずがないと思っていた。そのようなことを想像することもいけないことだと思っていた。でも愛しているというたった一言でこんなにも彼の隣を歩くことに抵抗がなくなるのだ。不思議だと思った。
と。
「京、」
落ち着きのある声がした。前方に薄藍色のドレスを纏った綺麗な女性とその隣に京と同じようにテールコートの男性がグラスを持ちながら近づいてきた。
直ぐに京の両親だということに気が付いた。
外国の血が入っていると思うほど顔立ちが日本人離れした女性に京が良く似ていたからだ。
男性の方も同じく雰囲気が京に良く似ている。
「久しぶり」
簡素な挨拶をする京はつばきの肩を抱き寄せた。
「将来結婚したいと思っている女性を連れてきた。つばきという。この二人は俺の両親だ」
つばきは直ぐに挨拶をした。
将来結婚したいなどもちろん思っていなかった。想像したこともない。
ずっと夜伽として傍にいられたらそれだけで幸せなのだと思っていたからだ。
だから急に京の両親へ将来を見据えた関係性を示した京にたじたじだ。
心の準備が整っていない。
京の両親は驚くことはしなかった。父親の方が一言「そうか」と言った。
認めてくれているという雰囲気でもない。表情が上手く読み取れない。
「お前は昔から随分と自由だ。勝手に家を出てどうしているかと思ったら急に貿易会社を立ち上げここまで成長させるなど…我が息子ながら感心したよ」
「それはどうも。過干渉な実家に嫌気がさしていたからな。それで、俺は将来公爵を継ぐことを了承する。だから彼女との結婚も認めてほしい」
ふっと馬鹿にしたように笑ったのは母親の方だった。
「本当にあなたは全く変わらないのね。分かっているでしょう?一条家がどれほど名の知れた家なのか」
「分かっている」
「そうよね、なのに一体どういう思考をすればそんなことが言えるのかしら。私たちは花梨さんがお相手だと思っていたし相手ともそのつもりでお付き合いしてきたのよ」
「俺の人生は俺が決める」
「傷つくのは彼女よ。さっさと解放してあげなさい」
まだ夢心地のつばきはこれが夢ではないかどうか京に何度も訊いた。
そのたびに京は目を細めて笑い夢ではないと言ってくれた。
京の隣にいるのは自分であるはずがないと思っていた。そのようなことを想像することもいけないことだと思っていた。でも愛しているというたった一言でこんなにも彼の隣を歩くことに抵抗がなくなるのだ。不思議だと思った。
と。
「京、」
落ち着きのある声がした。前方に薄藍色のドレスを纏った綺麗な女性とその隣に京と同じようにテールコートの男性がグラスを持ちながら近づいてきた。
直ぐに京の両親だということに気が付いた。
外国の血が入っていると思うほど顔立ちが日本人離れした女性に京が良く似ていたからだ。
男性の方も同じく雰囲気が京に良く似ている。
「久しぶり」
簡素な挨拶をする京はつばきの肩を抱き寄せた。
「将来結婚したいと思っている女性を連れてきた。つばきという。この二人は俺の両親だ」
つばきは直ぐに挨拶をした。
将来結婚したいなどもちろん思っていなかった。想像したこともない。
ずっと夜伽として傍にいられたらそれだけで幸せなのだと思っていたからだ。
だから急に京の両親へ将来を見据えた関係性を示した京にたじたじだ。
心の準備が整っていない。
京の両親は驚くことはしなかった。父親の方が一言「そうか」と言った。
認めてくれているという雰囲気でもない。表情が上手く読み取れない。
「お前は昔から随分と自由だ。勝手に家を出てどうしているかと思ったら急に貿易会社を立ち上げここまで成長させるなど…我が息子ながら感心したよ」
「それはどうも。過干渉な実家に嫌気がさしていたからな。それで、俺は将来公爵を継ぐことを了承する。だから彼女との結婚も認めてほしい」
ふっと馬鹿にしたように笑ったのは母親の方だった。
「本当にあなたは全く変わらないのね。分かっているでしょう?一条家がどれほど名の知れた家なのか」
「分かっている」
「そうよね、なのに一体どういう思考をすればそんなことが言えるのかしら。私たちは花梨さんがお相手だと思っていたし相手ともそのつもりでお付き合いしてきたのよ」
「俺の人生は俺が決める」
「傷つくのは彼女よ。さっさと解放してあげなさい」