確かに、つばきが緋色の瞳で誰かを見つめたときにおかしなことを口にした。
母親ですらつばきの目が呪われたものではないかと疑った。

西園寺家は元々つばきたちを良くは思っていない。そのため、これをきっかけに西園寺家からは遠く離れた農村地で暮らすように命じられた。
少しばかりの金銭の援助は保証してくれたが、それでは足りず母親は体が弱いながらに働きに出てつばきを養った。

つばきが10歳になった時、母親はつばきに訊いた。緋色の目で見た人間を殺すことは出来るのか、と。
つばきは母親から緋色の瞳で人を見てはならない、このことは絶対に他人に話してはならないと言ってきかせていたから一切その話題を口にすることはなかったのだ。
つばきは答えた。

『その人をしっかり見ようとすると、違う映像が浮かんでくるの。どうしてかはわからない』と。
昔、他にも同じようにして“見た”人がいたことも母親に話した。しかしその人物たちは死んでいないと。
母親は気が付いた。つばきには人を死に追いやる力はない。あるのは“未来”を見る力だと。
安堵したのと同時に不安に駆られた。この力はよくない人たちに利用される可能性がある。
つばきは母親から絶対にこの力のことは他人に話してはならないと言われた。


―…―


つばきが14歳の時に母親が亡くなった。その後すぐに西園寺家からの援助は無くなった。それからというもの、つばきは一人で生きていくことを決意して何とか仕事をさせてもらい生活をしていた。しかしつばきが19歳になった時にその生活は一変した。村人につばきの“噂”が広がったのだ。
それがどうして流れてしまったのか不明だったが、つばきは村で孤立することとなり働くことも出来なくなる。

“緋色の目で呪い殺す”という恐ろしい噂に村人たちはつばきを小屋に閉じ込めることにしたのだ。
そして、西園寺家の母親の妹の娘、つばきからすればいとこにあたる清菜(きよな)がタイミングよくこの村にやってきて西園寺家には内緒でつばきを援助するといった。
村に広がっている呪われた瞳の件は本当だと村人に説明して、西園寺家からしても“閉じ込めて”おかなければ犠牲が広がることを懸念して…ということが理由だといった。
意識が朦朧としていると、突然甲高い笑い声が聞こえた。

「あら、つばきさん。お久しぶりです」
清菜の声につばきは身を固くした。


「清菜さま、お久しぶりです」
「ええ、いつもつばきさんの面倒をありがとう。感謝するわ。でも、そろそろつばきさんにも働いてもらおうかしら」
「それは私たちも考えていました。でも…さすがに痩せすぎじゃ…」
「そうねぇ…少し食べる量を増やしてみてくれない?」
「わかりました。それから、働く…というのはどういう…?」