約束は夏を呼ぶ。
『十年後、あの丘』なんてフレーズだけでもう胸が締めつけられそうになる。
 真っ青な空にいきおいよくわき上がる入道雲、なのにそれを見上げる僕らのまわりの空気は強い日差しに押し固められたみたいで、それがいつまでも変わらない記憶、そして遠い未来の約束に重なるんだと思う。
 それに比べると、紅葉とか一面の雪景色に約束っていうイメージはない。
 春も別れの季節なのに、あんまり約束とは結びつかない。
 本当だったら、別れるからこそ、また会おうねって言いそうなのに。
 もう会えなくなるね、さびしいね、なんて一通り泣いてしまえば、新しい場所でみんな新しい生活を始めて新しい友達ができて全然さびしくなんかないし、今さら元の場所のことなんかすっかり忘れちゃって、戻る気にもならなくなるものだ。
 新しい場所とか出会いへの期待が大きすぎて過去の絆が霞んでしまうからなのかもしれない。
 べつにそれに文句を言うつもりもない。
 そうやって人は新しい環境に慣れていくものだし、そうでないと心が折れてしまう。
 僕だってそうやって生きてきた。
 おそらく一番の違いは熱量だ。
 鮮烈なイメージを記憶に焼きつける圧倒的な輝き。
 夏は容赦ない。
 その光は一瞬にして、特別な思いを日常の延長線上にはない遠い将来のどこかへ勝手に奪い去っていく。
 ――ほら、来いよ、ここまで来てみろよ。
 追いかければ追いかけるほど遠ざかる。
 焼けついたアスファルトに揺らぐ逃げ水のように。
 そのくせ、絶対にそれはなくならない。
 時は流れていくのに、いつまでも夏はそこに居続ける。
 なのに、手が届かない。
 約束はいつだってあの夏の青空なんだ。
 ――君のいたあの夏。
 それが僕たちの約束だ。