リュカとの食事を終えて帰宅するナディアを、両親が案の定待ち構えていた。
弟と妹は、美味しい食事をお腹いっぱい平らげてお昼寝中らしい。
「ナディ、一体何がどうなっているのか説明しておくれ」
怒られるのかと思ったのに、両親の表情は嬉々として明るく、目を輝かせていた。
母は「まぁ、なんて素敵なドレスなの」とうっとりして娘の着ているドレスを優しく撫でた。
「えっと、少し前に町で公爵さまの馬車に轢かれそうになったことがありまして、今日はそのお詫びのようなものなのです。けがをしたわけでもなかったので私は丁重にお断りしたのですが、公爵さまがどうしてもとおっしゃるので甘えてしまったのです。黙っていて申し訳ございませんでした」
(二人ともごめんなさい!)
罪悪感を感じながらも、ナディアは嘘八百を並べ立てた。
とてもじゃないが本当のことなど何一つ言えない。
これ以上両親に心配かけないためにも、余計な事は耳に入れないほうがいいに決まっている。
「まぁ、そんなことが!ベルナール公爵さまもなんて律儀なお方なんでしょう。こんな高価なドレスに宝石を下さる上、あんなに豪華な食事を我が家にまで届けてくださるなんて、一体どうお礼をしたら良いのでしょう。公爵さまに差し上げられるものもお金もございませんというのに・・・ねぇ、あなた」
「あぁ、本当になんと情に厚いお方だろう。お噂と寸分たがわぬお人柄だ。だが、使いのものが謝礼は一切受け取らないと言っていたし・・・、ここはどうだろう、公爵さまのご厚意に甘えてみては。せめてお礼の手紙だけでも出そうではないか」
「それが良いと思いますわ、お父さま。では、私は着替えて孤児院へ行って参ります。公爵さまがごちそうの残りを持たせてくださったので届けてきますわ」
「まぁまぁ、あの子たちどんなに喜ぶでしょうね。早く届けておやりなさい」
母の声を背にナディアはその場を後にした。
この後届く大量のドレスと宝飾品についての言い訳を考えながらーーーー