出会いの日

 それは、ずっと水の中にいるみたいに、半分意識のないまま生きていた俺にとって、まさに目の覚めるような出来事だった。
「鶴咲青花です。趣味は〝師走〟のゲーム実況を観ることです。年に四週間しか起きていられませんが、どうぞよろしくお願いします」
 ぽかんとしている俺たち生徒を置き去りにして、深々と頭を下げるその女子は、胸あたりの長さの黒髪をさらりと下に垂らしている。
 その一秒後、すっと顔を上げると、自分の自己紹介があまりにも言葉足らずだったことに気づいたのか、「あ、今ニュースでよく流れている『四季コールドスリープ』を受けているってことです」と、ピッと指先をそろえた右手を上げて、付け足した。
 高校二年生の四月のこと。
 クラス替えもないまま進学して間もない頃に、ずっと病気で休学していた生徒がやってくるということで、教室内は少しざわついていた。
 かなり病弱と聞いていたので、青白くて大人しい子を皆想像していたようだけれど、いざ目の前に現れたのは、色白ではあるがいたって健康そうな、本当に普通のノリの女子だった。
 しかし容姿は普通どころではなく、朝ドラの女優みたいなぱっちりとした目で、王道の美人顔をしている。
 面食らったクラスメイトはしんと静まり返り、あまりにもしっかりと挨拶をした彼女が席に着くまでただ茫然と見送る。
 三十代半ばの、俺と同じくらいぼうっとした坊主頭の男性教師が、何かのメモを見ながら鶴咲青花の情報に補足を加え始めた。
「えー、鶴咲は四季コールドスリープ……新しい治療法が見つかるその日まで、できるだけ凍眠し、悪い細胞の増殖を止め、延命するための処置を受けている。治療できるまで眠り続けるのではなく、時間の流れとのギャップを最小限にするために、春夏秋冬に一週間ずつだけ目を覚まして登校することになった。できるだけ授業のことで、フォローしてあげるように」
 メモを棒読みした教師は、いろんなことを無責任に俺たち生徒に託して、朝のホームルームを終わらせようとしていた。
 フォローしてあげるようにって、いったいどうやってすんだよ。
 進学校であるこの学校で、授業を年に数週間しか受けられないだなんて、どうやったってフォローできる訳がない。
 そんな生徒たちの心の声を無視して、教師は教室から出ていく。