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あんなに悪夢にうなされていたのに、それでもタータンの上で走れば、気持ちは無になることが出来た。この状態が穂南にとって一番いい。何も考えず、ただ、走る。スタートラインに立つ前に、少しずつ、自分が本番で一番にゴールラインを走り抜けるところを想像できるようになってきた。まだ不安に負けそうなときもあるけど、こうやって走ってさえいれば、そのイメージはとても鮮やかに穂南の眼前に広がる。
「穂南、最近ホント調子よくなってきたね。去年の夏の大会で予選落ちした時には、なんて声掛けようかと思ったけど、春からフォーム改善取り組んだのが出てる感じ?」
クラブハウスで仲間にそう問われて、そうだな、と思う。でも、それだけじゃなかった。
「うん……。それもそうだし、なんか、私、去年(あれ)から悪いことばっかり考えてたんだけど、悪いことばっかり考えてても、それに委縮しちゃって、いい結果は出ないんだな、って思ったんだ。今、いいイメトレ出来てる気がする」
「そうなんだー。なんか良かったよ。穂南、あの時激落ちしてたから、そこから今の復活劇って、なんかすごいドラマチックだ。今の穂南見てると、私もがんばろって思うわ」
「お互い様だよ。今の部内の空気、緊張感あって、すごく良いと思うし」
ホントホント、と同意してもらって笑っていると、さっきドアから出て行った部員が引き返してきて、穂南を呼んだ。
「穂南―、お客―。なんか話があるって」
「お客?」